生まれ育った山に『さよなら』と手を振って、好きな人の元に僅かな着替えと思い出の小物を持って走った私。
主人と私は、双方の親から結婚の許しをもらう事が出来ずに、35年前の春、知人を頼って上京しました。
慣れない土地で、力を合わせての共同生活の始まりです。
喧嘩をするヒマなんてありませんでした。
最初の壁は『言葉』でした。
方言が通用しないという事が全く計算外だった私達、日々戸惑いでした。
それでも、3ヶ月もすれば、お互いに職場にも溶け込み、友達も出来、どんどん進化していく東京での生活は本当に楽しいものでした。
1年後にやっと周りの承諾を得て入籍して、二人の子供を育ててきました。
3年前に長男が、昨年次男が結婚して、今は主人と二人きりの生活を送っています。
先月、長男の嫁から家族みんなで食事をしようと誘いを受け、主人と出掛けました。
日曜日のお昼を、随分遠い所に予約をしたものだなと思いながら、幼い時に経験したバス遠足の日と同じ気持ちで電車に乗りました。
着いてすぐ、私達はある部屋に連れて行かれました。
そして私は55歳で初めて花嫁姿というものに変身させられました。
結婚式を挙げていない私達夫婦に息子達からのプレゼントでした。
何枚も写真を撮ってもらいました。
『お母さん、笑ってください』と娘たちから言われても、嬉しい涙は止まってくれません。
ふりかえれば、いろんな事がありました。
でも、この人と結婚した事だけは一度も後悔した事はありません。
二人の息子達に、心から感謝です。
私達の子供に生まれてきてくれてありがとう。
二人の息子嫁にも感謝です。
私達の娘になってくれてありがとう。
私は、これから視力を失っていきます。
でも、大丈夫です。
愛する家族が私の目になってくれますから。
たったひとつの命だから
心に刻みます
全ての愛を