あくまで経験者の素人が得た知識を元に記述しています。信頼のある公的ソースはたくさんあります。そちらへの道案内とお考えください。随時加筆、修正しています。

私と長男の治療については、今後別記事として記載いたします。





●網膜芽細胞腫とは

網膜芽細胞腫は、子供の目の網膜に発生する悪性腫瘍(がん)です。日本では年間80人ほどが発症すると言われています。片目のみの片眼性と、両目にできる両眼性があります。  

病気の基本は以下に詳しくまとめられています。

また、日本小児血液、がん学会のガイドラインに詳しい治療法が掲載されています。おそらく有料のものだと思いますが、最新版ではないもの?がインターネット検索にヒットしますので、リンクを掲載します。


診断に至るまでと対応病院

がん、と聞くと背筋が寒くなります。サバイバーである私でもです。それまで何の心構えもせずにいた親御さんが、突然診断されて動揺する気持ちは痛いほど分かります。

診断に至るまでの一般的な流れは、白色瞳孔(カメラのフラッシュなどで猫の目のように光る)や斜視に気付き、小児科や眼科を受診→市民病院など総合病院を経て、大学病院やこども病院などのがん拠点病院で、眼底検査による診断に至るケースが多いように思います。

国が指定する小児がん拠点病院は以下です。

が、網膜芽細胞腫は数の少ない小児がんの中でも3.5%とまれな病気です。眼科との連携が必須であり、治療のスタイルや予後は他の部位の小児がん(白血病や脳腫瘍、腎腫瘍など)と印象が異なると思います。
      ※小児がんの症例割合のグラフがあります。

網膜芽細胞腫の治療が最も多く行われているのは東京の国立がん研究センター中央病院です。

私と長男は国がんで治療や経過観察を受けていますが、治療過程で出会ったお子さんが診断や一定の治療(全身化学療法など)、あるいは摘出手術を受けた病院は、知っているだけでも北大、東北大、成育医療センター、慈恵医大、筑波大、阪大、兵庫県立こども病院、京都府立医科大、広大、九大、琉球大などがあります。あくまで個人的に会った方の話だけで、他にもあると思います。

治療の中には、国がんでしかできない、というものが幾つかあり、この病気と診断された子のほとんどが、一度は国がんを受診しているといってもいいと思います。


治療方法
こちらも、上記で紹介したリンクに詳しく載っています。治療を受けるにあたり、細かいことではなく、ざっくり全体の流れを把握できるように書いてみたいと思います。

大きく分けると

①眼球摘出
②眼球温存治療
   ⑴全身化学療法(点滴による抗がん剤投与)
   ⑵局所治療(全身麻酔による手術)
       ※レーザー(光凝固)、眼動注、冷凍凝固、
          硝子体注入、アイソトープと呼ばれる種類
          のものがあります。
   ⑶放射線外照射(X線、陽子線)

があります。


○眼球摘出
簡単に言えば、網膜芽細胞腫は、目の中に腫瘍が留まっている限りは転移の可能性が低い病気で、突き詰めてしまえば、眼球摘出してしまうのが確実な治療法と言われています。血液や内臓、脳のがんとの違いはそこで、そのため5年生存率も90%と高いです。
反対に、視神経などにがん細胞が浸潤すると、脳や全身への転移の可能性が出てきます。当然腫瘍が大きくなれば、視力への影響も避けられません。網膜芽細胞腫は早期発見が重要と言われているのはこのためです。

様々な温存治療が開発される前は、片眼性は摘出、両眼性は重篤な方を摘出、視力が期待できる方は温存し放射線照射、が、治療のセオリーでした。
1983年に治療した私も、左眼を摘出し、右眼は放射線治療を行いました。

当時のことはわかりませんが、現在、摘出手術はあまり時間がかかりません。全身麻酔で眼球と視神経を切除します。状況にもよりますが、摘出に至るということは、転移の危険があるということでもあるので、視神経はなるべく長く切除し、がん細胞の浸潤がないか詳しく調べます。浸潤があれば、実際にその時点で転移が認められなくても、全身化学療法や放射線治療などが予防治療が必要になる場合があります。
詳しくは上記ガイドラインを参考にしてください。

ただ、摘出は当然ながら視力を失い、患者のQOL低下につながります。また、放射線治療は後遺症のリスクが上がるため、現在主流なのは、温存が期待できる状況ならば、全身化学療法で腫瘍をある程度小さくさせ、局所治療の組み合わせを繰り返す、という方法です。
 


○全身化学療法の流れ
全身化学療法は抗がん剤の点滴投与のため、国がん以外でも治療実績があります。数日間の薬剤投与→副作用による免疫の低下→回復を待つ→薬剤投与を、腫瘍の様子を見ながら最大6クール繰り返します。3週間程度が1クールで、免疫力にもよりますが、基本的に入院は薬剤投与の期間のみです。

○局所治療の流れ
局所治療は、国がん眼腫瘍科での実績がずば抜けており、日本ではここでしかできない局所治療もあります。
局所治療の種類は上記リンクを参考にしてください。治療は全身麻酔による手術で行い、入院期間は一回の治療で3日〜5日です。一度の手術で複数の局所治療が可能で(アイソトープを除く)、治療効果を見るためと、乳幼児への全身麻酔のリスクから、約1ヶ月に一度のペースで行われます。

もちろん、左右の眼で治療の効果が違う、とか、局所治療が効いていたが、腫瘍に勢いがあり効かなくなった、など、腫瘍の位置や発覚の時期など、症状によって効果は千差万別です。
治療の途中で摘出や放射線治療(視力が期待できなければあまり推奨されない)を提案されます。
あるいは、眼底出血で正確な検査が出来なくなり、摘出を余儀なくされた、という方の話もありました。

○放射線治療の流れ
大人のがんでも、放射線治療という話をよく聞くと思います。
放射線にはX線やガンマ線、陽子線や重粒子線などの種類があり、照射方法も外照射と内照射があります。
※がん治療全体の話で、網膜芽細胞腫に特定したものではありません。

2017年現在、日本では、眼球温存のための網膜芽細胞腫への放射線治療は、ほとんどの場合、X線外照射のことを指します。
網膜芽細胞腫は放射線の治療効果が高いことで知られています。化学療法や局所治療よりも再発率も低いようですが、身体が発達段階にある子供には副作用の多い治療であり、骨の成長障害や照射した場所から発生する骨肉腫などの二次がんの可能性を増大させるという統計があります。

放射線の照射単位は、グレイという単位で表されます。網膜芽細胞腫の場合、腫瘍や年齢に合わせ、計45-50グレイを25回前後に分けて照射します。
照射は連続で行われることが望ましく、1ヶ月半程度の間で集中的に行われます。一回の照射は数分で、大人の場合は外来で通院治療が可能ですが、子供は動かずに照射を受けることが難しく、現在は入院して鎮静剤で眠らせた上で、マスクで顔を固定した状態で照射するのが一般的だと思います。(何歳まで鎮静が必要かはわかりません。これは私の推測ですが、網膜芽細胞腫は脳など重要な組織の近くにある小さな腫瘍のため、固定と鎮静にはより厳密を期す必要があるのだと思います。)

また、放射線治療は通常、正常な組織への影響を与えない範囲で、腫瘍への最大の効果量を照射するため、1度しか行えず、途中で中止することはできません。

X線は腫瘍だけにピンポイントで照射することはできず、同じ線量で体の反対側まで突き抜けてしまいます。通ったところは正常な細胞も影響を受けるため、脳など他部位に当たらないように、顔の正面からではなく、側頭部(こめかみ)から照射されます。そのため、片眼だけの照射ができません。例えば、右眼の治療のために放射線をした場合、左眼に照射の必要があってもなくても同量が照射され、その後は両眼とも放射線での治療はできません。側頭部から照射されるため、こめかみの部分の骨への成長障害などの後遺症の可能性があります。


現在は先進医療として、強度変調放射線治療(IMRT)という、正常な部位へのX線照射を極力減らす方法や、粒子線(陽子線、重粒子線)と呼ばれる、放射線が当たる時に病巣のみに効率よく線量を集中し、X線に比べ、正常組織への線量を少なくする治療法が開発されています。

特に陽子線治療はX線のように体を突き抜けず、腫瘍に到達した時点で照射が止まり、体の表面より止まった場所で最大の線量となります。そのため片眼への照射が可能であり、腫瘍に到達するまでの正常な部位への影響も少ないとされます。

X線を「突き抜ける帯」に例えるならば、陽子線は「マッチ棒」みたいなモノでしょうか。突き抜けず、体の中で止まった先(腫瘍)にのみ火を点ける、というイメージです。



陽子線治療は、大人の場合、保険適用外で300万円ほどの費用がかかりますが、小児がんの場合、2016年4月から、保険適用になりました。後述しますが、網膜芽細胞腫は小児慢性特定疾病に指定されているため、他の治療と同じような補助が受けられます。

2017年現在、日本では陽子線治療による網膜芽細胞腫の治療は一般的ではありません。鎮静をしても眼球が動いてしまうため(眼振)、正確な照射ができない可能性があるからです。アメリカでは陽子線治療をできる施設がありますが、吸盤のような特殊な器具で眼球を固定して行われ、一定の効果を得ているそうです。

日本では、私が知っている限りで、眼球を摘出した後に、視神経浸潤などにより眼窩(眼球が入っている窪み)内の再発や、他部位への転移の恐れがある場合、眼窩全体に照射という形で行われています。小児の陽子線治療に積極的な病院として、筑波大学病院の陽子線治療センターが知られています。