なんだってあの女はあんな嘘をつくのかしら!まったく!

別に腹を立ててるわけじゃないわよ。あんな嘘を自慢げにベラベラベラベラ喋って、聞かされて、こっちは嘘だってわかってるじゃない?もう内心呆れ返って、ウンザリ。なんかもう本当可哀想!

あら、ごめんなさい。つい感情的になっちゃって。

聞いて欲しいのはね、シングルマザーの陽太君ママのことなの。彼女と私はお互いの子供を同じスイミングスクールに通わせててね、そこで仲良くなったのよ。

彼女はシングルマザーって言っても、親御さんが裕福らしくって、生活に苦労はしてないのよ。化粧が濃くて香水の匂いをプンプンさせてさ、男漁りが仕事ですって感じの女よ。

彼女が話すことと言ったら男のことばっか!スイミングスクールのインストラクターの先生を見ては、「あの先生の胸板、堪らな〜い」とか言って騒いでるの。全然自分の子供の泳ぎぶりを見てなくて、あんたそれでも親なのって思っちゃう。

その陽太君ママがこの間急に声を潜めて「愛莉ちゃんママ、私、この前さ、田辺先生に誘われて、そのままエッチしちゃった」とか言い始めてね。も〜私内心ブチギレまくり!

最初は私も「え!」って感じで信じちゃったわよ。どういうこと?ってもうパニックよ。

ああ、ごめんなさい。田辺直樹先生は愛莉と陽太君を教えてるスイミングスクールのインストラクターの先生。私が言うのもなんだけどイケメンよ。

なんでさぁ、あの人はああいう嘘をつくのかしらね。呆れちゃうわ!直樹とエッチしたですって?バッカバカしい!

ええ嘘よ。確実に嘘。だって私が直樹に直接確認したんですから!

直樹は私だけだって言ったわ。私だけを愛してるって!その言葉は嘘じゃない。私をしっかり見つめて言ってくれた。そのあとキスもしてくれたんだから。陽太君ママのことは「ひとりで寂しいんだろうから、妄想に付き合ってやれよ」って嘘に怒るんじゃなく優しく気遣ってあげてた。もう私、直樹の優しさが堪らなくなって、本当この人を好きになって良かった。私は直樹のことを愛してるって心の底から思ったわ。

だからね、私は陽太君ママの嘘を大目に見てあげようって思ってたの。私は直樹に愛されてるんだから、寂しい女の嘘には付き合ってあげなくちゃってね。

でも、陽太君ママの嘘はエスカレートしていったの!一緒に食事に行っただの、映画を見ただの。挙げ句の果てには、陽太君を連れて三人でディズニーランドに行ったとまでほざいたわよ、あの女!

もう私、我慢できなくなっちゃって。わかるでしょ?嘘だってわかってても聞かされ続けたら、もしかしたらって思っちゃうのよ。だから私、陽太君に本当かどうか聞いてみたの。

可哀想に陽太君、あの女にキツく口止めされてたみたいで、私が腕を掴んだらガタガタ震えてた。それでも私は聞いたわ。「違う」って一言言って欲しかったから!なのに陽太君は私の手を振りほどいて逃げて行った。母親のことがよっぽど怖かったのね。あんな嘘つき女を母親に持って陽太君は本当に可哀想で哀れだわ。

びっくりしたのはその夜に陽太君ママが凄い形相で家に怒鳴り込んで来たことね。あの女の常識を疑ったわ。

玄関先で「私のことを詮索しないで」だの「私が誰と付き合おうとあなたには関係ないでしょ」とか「子供を巻き込むなんてどうかしてる」って怒鳴り散らして。その取り乱し様が本当に異様だった。気でも狂ったのって思ったほど。

私も一方的に怒鳴り散らされて腹も立ったから、「あんたの嘘がそもそもの原因でしょ」って言ってやりたかったけど、旦那が出て来ちゃってね。言うタイミングを逃しちゃったわよ。下手なこと言って旦那に直樹との事を疑われたらそれはそれで面倒臭いことになるしね。
 
私の旦那が出て来たら今度はあの女、泣き落としに入ったわよ。本当にやり方が汚い。私が陽太君を脅したとまで言ったのよ!もちろん私は否定したわよ。そこまではしてないもの。

だから私は謝らなかった。私は何も悪いことはしていない。

収集がつかなくなって、代わりに旦那があの女に謝ってた。バッカじゃないの。謝る必要なんてこれっぽっちもないのよ。悪いのは嘘をついてるあの女なんだから!

私は嘘だってわかってる!

それを言えないのが苦しい。

そこにつけ込んであの女は私を悪者に仕立ててる!

あの女、ムカツク!

直樹は私のものよ。



※まあまあまあ、名作読んで落ち着いて下さい。

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