ビヨンド・ユートピア 脱北 | 3代目大村屋

3代目大村屋

映画・ダンス・旅行を中心に、日々感じた事を…

監督:マドレーヌ・ギャヴィン

出演:キム・ソンウン

 

 脱北を試みる家族の死と隣り合わせの旅に密着したドキュメンタリー。1000人以上の脱北者を支援してきた韓国のキム・ソンウン牧師は、幼児2人と老婆を含む5人家族の脱北を手伝うことに。各地のブローカー50人以上が連携し、中国、ベトナム、ラオス、タイを経由して韓国を目指す、1万2000キロメートルにも及ぶ決死の脱出作戦が展開される。サンダンス映画祭でシークレット作品として上映され、USドキュメンタリー部門の観客賞を受賞。

 

 北朝鮮から脱北する家族に密着したドキュメンタリー。本当に命がけの旅だよね。捕まったら逮捕じゃなくて処刑されるかもしれないんだから。実際の映像だけにその緊迫感はすごかった。こんなすごい映像はもう二度と撮れないかもしれなぐらい貴重だよね。脱北行為は最近取り締まりが厳しいらしく、国境警備隊は脱北しようとする人を殺すと報奨金が出るらしい。それくらい人口流出は大きな問題になっているってことだね。既に韓国に脱北した男性の妹家族からの「収容所に送られる前に、準備もないまま国境を越えた。これから先どうすればいいのか、助けて」という緊迫した電話から始まる。韓国で脱北支援をしているキム・ソンウン牧師がブローカーと話をつけ、何とか計画を作る。でも計画はどこで破綻するか分からない。ブローカーに裏切られるかもしれない。本当に死と隣り合わせだ。お婆ちゃんと幼い子ども2人を抱えて、本当に大変そう。でも逆に、この子どもたちの未来のために、という思いもあったんだろう。

 

 一方、北朝鮮から韓国に逃れてきた女性は、北朝鮮にいる息子を呼び寄せようとするが、失敗し、息子は捕えられる。どこに送られたのかも判然としないなか、いらだちと悲しみにくれる母親の姿は見てて辛かった。ブローカーが嘘を言ってお金だけを要求しているのかもしれない。でも「仕方ない。こちらは情報がないんだから。お金を要求されたら送るしかない」。キム牧師も「ブローカーは北朝鮮の人を金づるだとしかみていない」と話す。悲しいなぁ。

 

 韓国に無事到着した家族のお婆ちゃんと子どもたちが「一番尊敬するのは金正恩総書記様」って言ってるの見て、善良な市民はみんなこうやって信じているんだと思った。どんなにひもじくても、痛い目に遭わされても、金総書記は素晴らしい人で、周りの側近や国民が悪いと考えている。外国の人はなんでこんなひどい生活で耐えられるのか、なんで金政権を倒そうとしないのか、と疑問に思うかもしれないけど、自分たちは貧しくて辛いけど、他の国も同じように貧しくて不自由だと思っていたとか、アメリカ人は人殺しをするのが好きな国民だ、など長年にわたって刷り込まれた教えは根深い。あの国は今後、どうなるんだろう。

☆☆☆☆(T)