監督:ケン・スコット

出演:レイラ・ベクティ ジョナタン・コエン

 

 内反足で生まれた少年が、パワフルな母の愛と大好きなシルヴィ・バルタンの歌の力で奇跡へと導かれていく姿を実話を元に描いたヒューマンドラマ。1963年のパリ。6人兄弟の末っ子ロランは内反足で、一人で歩くことはできないと医師から宣告されてしまう。しかし、母エステルは希望を捨てず、家族や周囲の人々を巻き込みながら治療法を求めて奔走する。長く孤独な治療の間、ロランの心を鮮やかに救ってくれたのは、シルヴィ・バルタンの歌声だった。

 

 弁護士ロラン・ペレーズの実話に基づくお話。母親の愛情がすごい。結果的には母親の頑張りで歩けるようになったけど、医者の話を全く聞かず、自分の信念だけで学校にも通わせないのはどうなんだろう。監督自身もインタビューで「虐待だと思われるかもしれない」ってコメントしていた。しかも、ロランへの愛情は他の兄姉と比べて深すぎる。兄姉たちもロランを可愛がっていて、嫉妬みたいのは無さそうだったけど、どう思っていたのか。

 母が見つけて生きた独自の治療で歩けるようになってめでたしめでたしでは終わらず。母はロランのやりたい事や意見は聞かず、自分の思う通りに学校や進路まで決めてしまう。学校の対応がおかしいと思ったら乗り込んで猛抗議。すごいゴッドマザーだ。でも、ロランは素直で母に反抗することもなく、黙って言う通りにする。母の言った通りにしたおかげで、歩けるようになったし、弁護士にもなれた。愛する奥さんとの結婚を後押ししたのも母だ。子どもの頃から大好きだったシルヴィ・バルタンとも知り合いになれた。それは事実だ。でも、大人になって家庭を持つと母の干渉が疎ましく思える。そりゃあ、そうだ。子どものころから自分の意見を言わずに、というか言えずにずっと我慢してきたけど、さすがに大人になって、自分で考えるようになったら自分で決めたいよね。ただ、エステルだけでなく、世の親は子どもを愛し、心配し、時に過干渉になるのだろう。ロランは母とケンカして疎遠になりながらも最期はちゃんと看取った。エンディングで流れるバルタンの歌が心に沁みた。
☆☆☆(T)

監督:吉野耕平

出演:中村倫也 神木隆之介

 

 直木賞作家の小川哲の同名小説を映画化。賞金1000万円をかけた生放送のクイズ番組の決勝戦。「クイズ界の絶対王者」こと三島玲央と、「世界を頭の中に保存した男」といわれる本庄絆は、共に優勝へ王手をかける。迎えた最終問題の早押しクイズで、本庄は問題が1文字も読まれていないのに正解を言い当て優勝を果たす。あり得ない出来事に、三島は困惑を隠しきれない。本庄はなぜ不可能とも思える「ゼロ文字正答」を成し得たのか。三島はその謎を解明すべく独自に調査するが…。

 

 なかなか面白かった。クイズ番組の回答者が1文字も聞かずに正答した理由を探るミステリー。ただの偶然ではなく、ちゃんと理由があり、王者は出題する番組側の意図に気づいて対応したということね。それにしても、今まで自分がクイズ番組で解いてきた問題をすべて覚えているとか、読み上げるアナウンサーの口元の動きで予測するとか凄すぎる。知識が多ければ勝てるという訳でもないのね。
☆☆☆(T)
 

監督:ジン・イー

出演:イェスル・ジャセレフ レン・ズーハン

 

 新疆ウイグル自治区の辺境の村を舞台に、植物と対話する少年の成長を詩的な映像美で綴ったドラマ。祖母と暮らすカザフ族の少年アルシンは、植物を観察し記録する毎日で、「植物学者(ボタニスト)」と呼ばれている。漢民族の少女メイユーと知り合い、明るく自由な彼女の存在はアルシンの静かな日常に変化をもたらすが、やがてメイユーは上海へ引っ越すことになり、アルシンは再び孤独と向き合うことになる。ベルリン国際映画祭ジェネレーションKplus部門にて国際審査員グランプリを受賞。

 

 自然豊かなウイグルの景色が美しい。川や木漏れ日がきらきらと輝いている。主人公アルシンは植物をこよなく愛する少年。様々な植物を採集して押し花にしてノートに貼り付ける。彼が植物のほかに好きなのは隣村に住むメイユーという少女。2人はのんびりひなたぼっこをしたり、川遊びをしたりして夏休みを過ごす。2人とも素朴で素直そう。可愛いらしい恋だ。この地域は中国政府からの弾圧に苦しんでいるが、映画ではあまり政治的なことは出てこない。いたってのんびりしている。

 ところが、メイユーが突然、上海の学校に転校することになり、アルシンは動揺する。上海まではバスや電車を乗り継いで何日もかかる。離れてしまったら心も離れてしまうと心配になる。そんなに遠かったら、ほとんど会えなくなる。メイユーは漢族で、いわば支配階級の娘。カザフ族のアルシンは彼女が手が届かない存在になってしまうかもしれないことにも気付いているんだろう。同じ頃、北京の出稼ぎから逃げてきた兄も再び北京へ向かう。この地域が巨大な中国にだんだん飲み込まれていくような寂しさを感じた。
☆☆☆(T)

監督:ニコラス・ハイトナー

出演:レイフ・ファインズ

 

 戦争で存続が危ぶまれる合唱団が前代未聞の試みによって新たな希望を見いだしていく様を描いたヒューマンドラマ。第一次世界大戦下のイギリス北部ヨークシャー。徴兵で団員が減ってしまった合唱団が、再び歩み出そうとしていた。指揮者には敵国ドイツで活動していたガスリーが選ばれた。彼は退役軍人、売春婦、ボランティア、徴兵を控えた少年たちなど寄せ集めの団員たちと向き合い、失われたつながりや希望を取り戻していく。しかし再び徴兵通知が届き始め、人々は戦争の影にのみ込まれていく。

 

 第一次世界大戦中の1916年、イギリス北部で活動していた合唱団の話。著名な指揮者が合唱団をまとめ上げて、素晴らしい歌声を披露した、というお話だと思っていたら全然違った。当時、戦争に駆り出された一般市民の戦死通知が続々と届き、残った男性たちも次は自分たちが戦争に行くんだ、という思いでいた。そんな彼らと町の人々の群像劇だった。

 合唱団で活動する彼らの日常を描きながら、戦争の暗い影が少しずつ日常を脅かしていく様子を丹念に描いている。町に残った若者は恐怖心を打ち消すように、はしゃいだりふざけたり、戦争に行けるのが嬉しいとうそぶいたり。みんなで演奏会に向けて頑張った後、それぞれの思いを胸に戦場に向かう若者たちの姿にほろりとしてしまった。
☆☆☆(T)

監督:緒方明

出演:佐々木蔵之介 内藤剛志

 

 旧来の漢方医と西洋医学を学んだ蘭方医が混在した幕末を舞台に、村医者の蘭方医大倉太吉の奮闘を描いた時代劇。太吉は貧富や身分を問わず市井の人々を救う、寛容で好奇心旺盛な蘭方医。漢方医の玄斎とは、日々激しい論争を繰り広げる犬猿の仲だ。ある日、気性の激しい青年新左を手術で救ったことを契機に、太吉と新左の人生が大きく変化していく。京都の医大生たちを描いた群像劇「ヒポクラテスたち」で知られる大森一樹監督が企画したが、撮影準備中の2022年に大森監督が逝去したことで、企画は幻となりかけたが、緒方明監督が遺志を継ぎ、完成へとこぎつけた。

 

 予告編を見た時には、蘭方医と漢方医が対立するコメディかと思ったら違った。漢方医とのバチバチは最初だけで、その後は結構真面目なお話だった。当時は西洋の医学知識が入り始めた頃で、医者も試行錯誤しながらの診察だったのね。太吉は貧乏人からはお金をもらわないなど、医者の鑑のような人だった。映画に出てくる腸チフスなどの感染症の患者が出た時は、知識がないせいで、医者の言うことを信じない人が多かったのも納得。医者としては辛いの一言だね。医者が多くの苦労を重ねてくれたおかげで、今の医学があると思うと、感謝しかない。
☆☆☆(T)