プリズン・サークル | 3代目大村屋

3代目大村屋

映画・ダンス・旅行を中心に、日々感じた事を…

監督:坂上香

 取材許可に6年をかけ、2年に渡り国内の刑務所に初めてカメラを入れて完成したドキュメンタリー。刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」は官民協働による新しい刑務所で、受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促す「TC(Therapeutic Community=回復共同体)」というプログラムを導入している日本で唯一の刑務所。受刑者たちはプログラムを通じて、窃盗や詐欺、強盗傷人、傷害致死など、自身が犯した罪や、貧困、いじめ、虐待、差別といった幼い頃に経験した苦い記憶とも向き合う。カメラは服役中の4人の若者を追い、彼らがTCを通じて新たな価値観や生き方を身につけていく姿を描き出す。

 

 刑務所に2年も密着してカメラを回したというだけで貴重な映画だと思った。犯罪を犯した人みんながみんな刑務所で更生できるかと言えば、そうじゃない。再犯率の高さがそれを物語ってる。刑務所では自分を見つめ直す時間が増えるだろうが、その時間を何に使うかはその人次第だ。同センターは、日本で唯一TCという更生プログラムを取り入れている。私は全然知らなかったけど、とてもいいプログラムだと思った。

 犯罪を犯して有罪になった人は、そこで初めて自分のやってしまったことの重大さに気づき、家族や友人が悲しんでいるのを見て反省すると思っていた。でも、そうじゃない人もたくさんいる。びっくりしたのは、盗みや詐欺で服役している男性が「反省はしてるけど、持っている人から盗んで何が悪いのか分からない」とさらっと言っていたこと。そのお金を苦労して貯めた人や、何かに使うために一生懸命節約したかもしれないという想像力がないんだね。たまたまかもしれないけど、取材対象の受刑者4人は、子どもの頃から虐待を受けていたり、家庭環境が複雑だったりした人が多かった。

 TCでは、役割を変えて、相手の立場に立って考えてみるとか、様々なアプローチで更生を促す。とても興味深かった。出所後も定期的に集まるなど、長期的な支援システムがあるのは心強いと思った。こんなにいいプログラムなのに、日本で1カ所しか導入してないのはなぜなんだろう。もっと広がればいいのにと思った。
☆☆☆☆(T)