3代目大村屋

3代目大村屋

映画・ダンス・旅行を中心に、日々感じた事を…

監督:アグニエシュカ・ホランド
出演:ジャラル・アルタウィル マヤ・オスタシェフスカ

 

 ポーラドとベラルーシの国境で「人間の兵器」として扱われる難民の過酷な運命を、スリリングな展開と美しいモノクロ映像で描いた人間ドラマ。ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす目的で大勢の難民をポーランド国境に移送する「人間兵器」の策略に翻弄される人々の姿を、難民家族、支援活動家、国境警備隊など複数の視点から映し出す。「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、ヨーロッパに入れる」という情報を信じ、幼い子どもを連れてシリアを脱出した家族。国境の森にたどり着いたが、国境警備隊から非人道的な扱いを受けた末にベラルーシへ送り返され、さらに再びポーランドへ強制移送されることに。一家は暴力と迫害に満ちた過酷な状況のなか、地獄のような日々を強いられる。ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した。

 

 実際の事件を元にしているらしい。かなり衝撃的だ。ヨーロッパ各国は中東やアフリカ諸国からの難民流入に頭を悩ませている。そうは言っても、自国に入ろうとする人々をここまで残酷に扱うとは。死んでも構わない、という扱いだ。ベラルーシ政府が嘘の宣伝を流して多くの中東難民をポーランド国境に送り込んでいることが諸悪の根源。EU各国を混乱させるためというくだらない理由で人の命をあまりにも粗末に扱っている。で、その作戦に乗るまいと強硬姿勢で追い返すポーランドもポーランドだ。国際的世論が非難しても知らん顔か…。

 

 最後、ロシアによる侵攻でウクライナの人々がペットと共にバスで手厚く受け入れられるのと大違いだ。これは人種や宗教によって受け入れられ方が異なるという差別そのものだ。じゃあ、どうしたらいいのか?難民問題は本当に難しい。答えは簡単に出ないし、一つじゃないだろう。

☆☆☆☆(T)

監督:山下敦弘
出演:濵尾咲綺 仲吉玲亜 清田みくり

 

 四国地区高等学校演劇研究大会で文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞した徳島市立高校の同名舞台劇を映画化した青春群像劇。高校2年生のココロとミクは体育教師山本から、特別補習としてプール掃除を指示される。水のないプールには、隣の野球部グラウンドから飛んできた砂が積もっていた。2人が嫌々ながらも掃除を始めると、同級生で水泳部のチヅルや、水泳部を引退した3年生のユイも加わる。学校生活や恋愛、メイクなど何気ない会話を交わすうちに、彼女たちの悩みが溢れ出し、それぞれの思いが交差していく。

 

 山下監督だから期待したんだけど、イマイチだった。私は高校生のキラキラした青春映画が好き。もちろん悩んで悶々としていてもいい。だけど、今作は高校生特有の、若さゆえの思いがあまり感じられなかった。弾けてもいないし、キラキラもしてなかった。演劇に向いている脚本と映画に向いている脚本があると思う。これは舞台向きだけど、映画には向いてないと思った。

☆☆(T)

監督:アンドレアス・ドレーゼン
出演:メルテム・カプタン アレクサンダー・シェアー

 

 グアンタナモ収容所に収監された無実の息子を救おうとするドイツの母の実話を映画化し、ベルリン国際映画祭で銀熊賞2冠(主演俳優賞、脚本賞)を受賞したドラマ。2001年のアメリカ同時多発テロの1カ月後、ドイツに暮らすトルコ移民ムラート・クルナスは旅先でタリバンの嫌疑をかけられ、グアンタナモ収容所に収監されてしまう。行政も警察も動いてくれず、母ラビエはわらにもすがる思いで人権派弁護士ドッケに助けを求める。やがてラビエはアメリカ合衆国最高裁判所でブッシュ大統領を相手に訴訟を起こすことを決意する。

 

 実際にあった事件を元にした作品。無実なのにタリバンと疑われてグアンタナモ収容所に送られてしまった息子を助けるために奮闘する母。予告編だと肝っ玉母さんが頑張る、ちょっとコメディっぽいのかと思ったけど、題材が題材なだけに、全編コメディにはならないよね。笑える部分もあったけど、後半は真面目な感じになって、どっちつかずに見えてしまった。いっそ、笑える部分をなしにしても良かったかなとも思ったけど、それだとエンターテイメントとしては弱くなってたかもしれない。

 同じように、グアンタナモ収容所に送られたモーリタニア人を描いた「モーリタニアン 黒塗りの記録」は拷問の様子も描き、理不尽なアメリカの対応を鋭く批判する社会派だった。笑いを少しまぶしながらも、息子が拘束されてからの日数が表示され、焦燥感や切実さを物語っていた。米政府の無責任さ、いい加減さを追及する描き方は一つじゃないね。
☆☆☆(T)

監督:川畑耕平

出演:グエン・ドク

 

 ベトナム戦争で使用された枯葉剤の影響で1981年に結合双生児として生まれ、88年に分離手術を受けた後も深刻な健康問題を抱えながら平和のアンバサダーとしての使命に生きる「ドクちゃん」ことグエン・ドクさんの人生をとらえたドキュメンタリー。2024年2月に43歳を迎えたドクさんは入退院を繰り返すなかで、結婚18年目になる妻トゥエンさんと双子の子どもフジくんとサクラちゃん、そして闘病中の義母を自宅介護しながら暮らしている。日本とベトナムの友好の絆を象徴するドクさんの人生の軌跡を、ドクさん自ら監修を手がけて本人の視点から忠実に描き出す。

 

 ベトちゃん、ドクちゃんのことは日本でも分離手術が大々的に報道されたから、私も知っている。兄のベトちゃんが亡くなったのは知っていたが、その後ドクちゃんがどんな風に生活しているのかは全く知らなかった。手術が成功したとは言っても、片足はなく松葉づえが必要で、腎臓などの異常で人工の尿の出口(ストーマ)をつけ続け、動くと痛いという。元々大変な状況だった訳だから分離手術が成功しても「はい、健康になりました」とならないのは当たり前だけど、私たち日本人は「手術成功、おめでとう」「歩けた、おめでとう」で終わっていたのではないだろうか。

 体の不調さからドクちゃんに笑顔は少なく、家計が苦しいため配達のアルバイトもしている。手術が成功した後も現実は厳しい。母親、父親とは断絶状態だという。生まれてすぐに「捨てられた」に近いような状況だったらしい。無理もないけど、切ない。今は優しい奥さんと双子の子どもに恵まれ、家族でいる時は少しだけ笑顔が見える。自分でも「長くは生きられない」と話しているが、子どもたちにはたっぷりの愛情を注ぎ、教育にも力を入れている。自分のような犠牲者を出さないために、子どもたちには頑張ってほしいと思っているんだろう。
☆☆☆☆(T)

監督:ノラ・フィングシャイト
出演:ヘレナ・ツェンゲル アルブレヒト・シュッフ

 

 どこにも居場所がない9歳の少女の姿を繊細かつ強烈な描写で描き、ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞(銀熊賞)など数々の賞に輝いたドイツ映画。父親から受けた虐待のトラウマを抱えるベニーは攻撃的で、里親やグループホーム、特別支援学級など行く先々で問題を起こしていた。ベニーは母親の元に帰ることを望んでいるが、母親はベニーに愛情を持ちながらも接し方がわからず、施設に押しつけ続けている。そんな中、非暴力トレーナーのミヒャは3週間の隔離療法を提案し、ベニーと2人で森の山小屋で過ごすことに。最初は文句を言っていたベニーだったが、徐々にミヒャに対して心を開き始める。

 

 最初は自分の感情をコントロールできない癇癪持ちの女の子という印象。でも、幼い頃に父親に虐待された過去や、母親と一緒に暮らせない寂しさが理由だと分かると、不憫になった。親の愛情に飢えて、それが得られないと人はこんな風になってしまうんだ、と衝撃を受けた。

 

 ベニーは自分を愛してくれる人には心からの信頼を寄せる。社会福祉課の職員の女性はいつもベニーに寄り添い、ベニーも彼女には素直に接することができる。あまり出てこなかったけど、里親も愛情深い人に見えた。ミヒャに対しても少しずつ心を開く。だけど、その愛情が少しでも揺らぐと、また捨てられて一人になってしまうのではないかという恐怖心を感じて暴れてしまうんだろう。愛情欠乏症とでも言えばいいのか。これは大人になってからも続くような気がする。子育ては難しい。でも親にはその責任があると思う。ただ一緒に暮らすだけでいいのにと思ったけど、それが難しい親がいるのも現実だね。
☆☆☆☆(T)