大人の相対的貧困率 | 感じる科学、味わう数学

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 「子供の相対的貧困率」という言い方がある。それによると「子供のうち6人に1人が相対的貧困の状態にある」ということになるらしい。テレビや新聞などで時々目にする表現だ。
 でも冷静に考えてみると、その数字が大きいのか小さいのかよくわからない。「子供の6人に1人が相対的貧困」と言われても、それがどれだけ大変なことか、実はよくわからない。
 ところで「相対的貧困」とはどういうものかというと、世帯の所得などが全体の「中央値の半分以下」であることをいう。ということは、全体がどれだけ豊かになろうと、豊かさにバラツキがあれば、必ず相対的貧困は存在することになる。こうなると「6人に1人が相対的貧困」が多いのか少ないのか、どれだけ大変なことなのかあるいはそれほどでもないのか、ますますわからなくなる。

 そこで「大人の相対的貧困率」を調べてみた。1つ目の資料は厚生労働省のサイトで公表している「世帯の所得の分布(2015年)」である。

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 これを見ると、世帯の年間の所得金額の中央値が427万円だから、その半分の213万円以下が相対的貧困ということになる。年収200万円以下の世帯が 6.4+13.6=20.0% で、比例配分して計算すると年収213万円以下の世帯は 21.8%、つまり「大人の5人に1人が相対的貧困」ということになる。

 他の資料も見てみよう。2つ目の資料は総務省統計局のサイトで公表している「二人以上の世帯の貯蓄額の分布(2015年)」である。

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 これを見ると、貯蓄保有世帯の貯蓄額の中央値が1054万円だから、その半分の527万円以下が相対的貧困ということになる。貯蓄額500万円以下の世帯が 11.1+5.7+5.6+5.1+4.4=31.9% で、比例配分して計算すると年収527万円以下の世帯は 33.1%、つまり「大人の3人に1人が相対的貧困」ということになる。(ちなみに中央値1054万円というのは「貯蓄保有世帯」の中央値であって、貯蓄額ゼロの世帯を含めると中央値は997万円になる。そのことも総務省統計局公表の資料に書いてある。)

 こうして見てみると「子供の6人に1人が相対的貧困」というのは決して大きな数字とは言えない。むしろ「子供の貧困率は、大人の貧困率よりもだいぶ低い」と言える。
 ここで今日の結論。「子供の6人に1人が相対的貧困」という言葉が一人歩きしている。その言葉を使う人は「子供の置かれた経済的困難さ」を訴えようとしているのだろう。その言葉を聞いて「これは大変なことだ。なんとかしなければ」と考える人も多いだろう。けれども、その訴え方・受け取り方はどちらもズレていると言わざるを得ない。