手術前は体調の悪さや身体の異変はあったものの、

母はいつもの母だった。


ところが、術後はたまに違う世界にいるようになった。

実家にアシナガバチが住みついた話をすると、数日後には病室にも蜂が現れ怖がるようになった。

来ていないはずの親戚がお見舞いに来たことになっていたり、

若い男性の看護師さんが子供をたくさん育てるシングルファザーになっていたり笑い泣き

普段全く電話しない人に電話をかけて、通じてるのか通じてないのかよくわからない会話をしたり。


中でも1番多く登場したのは父。

一時期、病室では父がいるのが当たり前になっていて、「今日はどこにいるの?」

「今何してるの?」と、全く抵抗のない私は普通のことのように話してた。


家に帰ったある時、天井を見ながら目で何かを追ってたから、

「なにかいるの?」って聞いたら、「うん。ちーぼが走ってる。」と。

ちーぼは私より先に家族の一員だった柴犬。


ちーぼが待っててくれてるんだな、でもまだこっちで一緒にいて欲しいからもうちょっと待っててね、って

天井に向かってお願いした。