幸せは何処に | ただ、過ぎに過ぐるもの

   Ueber den Bergen
    Carl Busse  1872-1916


  Ueber den Bergen, weit zu wandern,
Sagen die Leute, wohnt das Glück.
Ach, und ich ging im Schwarme der andern,
Kam mit verweinten Augen zurück.
Ueber den Bergen, weit , weit drüben,
Sagen die Leute, wohnt das Glück...

 

 

日本語訳

上田 敏 1874-1916 

山のあなた

山のあなたの空遠く

『幸い』住むと人のいふ

(ああ)われひとと尋(と)めゆきて

涙さしぐみかえりきぬ

山のあなたになほ遠く

『幸い』住むと人のいふ

 

カール・ブッセ

ドイツの新ロマン派の詩人

上田 敏

英文学者 評論家 詩人 翻訳家

 

:::

 

そのむかし

オーストリアのドイツ語詩人

Rainer Maria Rilke 1875-1926 の詩が好きで

理解を深めるために

無謀にも原詩で読みたくなりました

が、ドイツ語は全く分からないので

夫に教えを乞いながら

苦労して読んだことがあります

 

そのとき、カール・ブッセの

この Ueber den Bergen を思い出し

日本語の詩に直してみたのですが

翻訳の難しさが身に沁みました

 

上田敏の翻訳は本当に素晴らしい

七五調で書かれたこの『山のあなた』は

翻訳の域を超えた文学作品そのもの

日本語を母語にしている誇りすら

感じさせてくれます

 

:::

 

幸せは遠いところにあるのではなく

自分の身近なところにある

人の言葉に惑わされてはならない

幸せはきっとどこかにあるのだから

希望を持って生きよう

etc.

この詩を読んで

どう感じるかは人それぞれですが

私は、真っ先に

メーテルリンクの『青い鳥』を

連想しました

 

:::

 

現代語に直すと

山の向こうの

遠い空の彼方まで行けば

幸せがあると人が言っている

ああ、私もみんなを誘って

幸せを探しに行ったけれど(見つからず)

涙を流しながら帰ってきた

それでもなお, 人は言う

山の向こうの

そのまた遠い空の彼方には

幸せがあるのだと

 

 

 

 

 

o l i v e