今週の《古楽の楽しみ》は
月曜日と火曜日が
フランスに生まれ
渡英して活躍した
フランソワ・デュパールの特集でした。
第1回目の最初に
やはり新規でパーソナリティーに加わる
遠山菜穂美の就任挨拶があったことを
半分うつらうつらとしながら
耳にしたことを記しておきます。
それに続いて水曜日が
前の記事にも書いた通り
シェイクスピア特集だったので
てっきりイギリス系の特集が続くのか
と思っていたんですけど
木曜日の今日は
中世イベリア半島の音楽特集でした。
シェイクスピアが活躍していた時代の
イギリスの音楽家といえば
まず指を屈せられるのが
リュート奏者として名声を馳せた
ジョン・ダウランドでしょう。
木曜日にダウランドが流れるか
と思っていたんですけど
当てが外れて残念です。
そんなふうに思ったのも
つい先日
アルコール抜きの晩酌の際
耳にキンキンくるような器楽曲を
聴く気分でもなく
ふと目にとまった
《ダウランド:リュート歌曲全集》
全2巻(2枚組+3枚組)を
5日間かけて聴き通していたからです。
(第1巻:ポリドール F58L-20399/400、1989.5.25、
第2巻:ポリドール POCL-2052/4、1990.5.25)
原盤はいずれもオワゾリール。
演奏はアントニー・ルーリー指揮
コンソート・オブ・ミュージック。
第1巻の録音時期は
CDのどこにも書いてなくて
検索してヒットした
こちらのページによれば
1976年1月&11月のようです。
第2巻の方は
CDの裏側のジャケットに書かれており
1977年3月&10月、1978年6月
1979年4月となります。
本盤は第1巻・第2巻とも
以前、こちらで取り上げた
モンテヴェルディの
一緒に見つけたのではなかったか
と記憶しております。
お馴染み、皆川達夫の
『ルネサンス・バロック名曲名盤100』
(音楽之友社、1992)に
お薦め筆頭盤として
第1巻が取り上げられており
それもあって気にはとめていましたが
昔は歌ものは苦手だったので
手を出してはいませんでした。
それに
リリース当時の価格で
1巻が税込5940円
2巻が税込8400円ですから
手を出そうと思っても
懐が許さなかったでしょう(笑)
ダウランドは生涯を通じて
リュート伴奏を伴う歌曲集を
全部で4冊出しています。
21曲収録の第1巻(1597)
22曲収録の第2巻(1600)
21曲収録の第3巻(1603)のあと
やや間を置いて
21曲収録の4冊目を
《巡礼の慰め》(1612)
と題して刊行しています。
CDにはそれら全曲に加え
当時のアンソロジーにのみ
収録されている曲などを
補遺として8曲収めているので
2巻合わせて全93曲
(93トラック)となるわけです。
これを5日かけて
一気に聴いたわけですから
どれがいいとか
どれがイマイチだとかいう
感想をいえるほど
印象に残るわけもなく。( ̄▽ ̄)
皆川の本で取り上げられているのは
〈流れよ、我が涙〉Flow My Teares
という代表曲ですが
実は今回、初めて聴きました。(^^;ゞ
ちなみに「涙」の綴りが
tears ではなく teares なのは
皆川の本にある通りで
これは当時の、つまり
古英語の綴りのままである
ということだと思われます。
今回の盤の
ライナー小冊子で確認してみたら
タイトルも原語の歌詞も
tears となっていて
ありゃりゃ、と
思ったことでした。( ̄▽ ̄)
それはともかく
この〈流れよ、わが涙〉に関しては
のちにダウランド自身の手で
器楽合奏用に編曲した版が出ており
そちらを耳にしたこともあって
ようやくメロディーを覚えた
という体たらくだったりします。
その有名なメロディーがこちら。
例によって
「動画を再生できません」と出るので
アドレスも貼っておきます。
上に貼ったものは
今回の盤に収録されているもので
歌唱はエマ・カークビーと
デヴィッド・トーマスの二重唱、
リュート伴奏はアントニー・ルーリーです。
歌と一緒に譜面が流れるのが
分かりやすくていいですね。
で、このメロディーを
聴いていると
伊福部昭がゴジラ映画のために
作曲した曲と似ているなあ
と思えてならず。
手元のCDで確認してみたところ
その伊福部の曲というのは
《モスラ対ゴジラ》(1964)の劇中曲で
ザ・ピーナッツ演じる小美人が歌う
〈聖なる泉〉だと分かりました。
〈聖なる泉〉の出だしの旋律と
〈流れよ、わが涙〉のBパートの旋律
('Never may my woes' で始まる3節目
'From the highest spire' で始まる4節目)が
偶然とはいえよく似ている
と感じられたんですけど
いかがでしょうか。
〈流れよ、わが涙〉は
有名な曲だけあって
YouTube にもたくさん
アップされていますけど
古楽の奏法に沿った動画で
カークビーが歌っている
近年の映像を見つけました。
こちら↑の動画は
2013年2月21日に撮られたもので
近年といっても
もう12年以上前ですけど。(^^ゞ
リュート奏者の
ジョエル・フレデリクセン
Joel Frederiksen が
弾き振りしての二重唱
というのがいいですね。
フレデリクセンの声が実に渋い。
カークビーの歌い方は
CDの頃に比べたら
装飾をつけるようになったというか
同じ旋律を繰り返して歌う場合
最初と違うように歌おうとしている
という気がします。
これは
ヴィヴァルディなどの
イタリアの作曲家による
アリアの歌い方
(ABA形式の3節目で
Aパートを繰り返すとき
装飾音を加えて
最初とは異なるようにして
歌うスタイル)を
意識しているのかもしれない
と素人考えで思ったりしました。
YouTube の
「もっと見る」のところに
歌詞が載ってますので
メロディー的にAABBCC
(ふたつめのCは
同じ歌詞の繰り返し)
という構造になっていることが
分かりやすいかと思います。
先のように書いたのはつまり
カークビーは偶数節になると
装飾を加えている印象を受ける
ということでした。
ところでCDの方ですが
ライナー小冊子の解説は
両巻とも金澤正剛の執筆で
各曲ごとの解説も務めています。
それはそれとして
歌詞対訳はなんと高橋康也で
これにはびっくりでした。
正確には
第1巻のどこにも
歌詞対訳者の名前が
記されていないんですけど
第2巻には高橋康也
と書かれていますので
第1巻の方も高橋で間違いないかと。
それに、今谷和徳
『ルネサンスの音楽家たち』第2巻の
(東京書籍、1996.12.2)
ダウランド小伝の冒頭で引用されている
〈流れよ、わが涙〉の訳が
高橋康也訳となっていることも
証左となりましょうか。
で、びっくりというのは
自分の場合、高橋康也といえば
『ルイス・キャロル詩集』や
『不思議の国のアリス』の翻訳
『ノンセンス大全』(1977)などの
著者としてのみ
その名に親しんできたからです。
シェイクスピアや
ヴィクトリア朝文学を
研究対象としていたので
ダウランドのリュート歌曲の
歌詞対訳をやっていても
おかしくはないわけですが
まるで視野に入っておらず。
ついでにいえば
言及されておりませんで
遺憾というより他ありません。
この翻訳をまとめた本が
文庫本で欲しいなあ
とか思った次第ですが
残念ながらニッチすぎて
需要はほとんど
ないでしょうから
実現しないでしょうけどね。( ̄▽ ̄)
ついでながら
Wikipedia で高橋康也の項目を見て
河合祥一郎が高橋の女婿だと知り
今さらながら驚いた次第です。
なにぶん
ものを知らないので
この歳になっても
驚くことばかりです(苦笑)
なお
今回のCDは演奏はもちろん
資料的にも優れていることを
認めるにやぶさかではありませんが
ただひとつ残念なのは
第1巻のCD1、16曲目
〈ぼくの思い込みが〉の最後
演奏がフェイドアウトしていく途中で
音が切れていたことです。
フェイドアウトに入って
終わりの方とはいえ
ぷつんと切れる感じがするのは
如何ともしがたく。
これは
自分のCDだけの瑕疵なのか
それともリリースされたCD全てが
こんなふうに切れているのか
それを確認するためだけに
書い直すわけにもいかないし
困ったものです。
……と思っていたんですが
ふと思いついて YouTube にないか
検索してみたら、ありました。
いつもの注記が出ますので
アドレスも貼り付けておきます。
本曲の演奏は
エマ・カークビー(S)
ジョン・ヨーク・スキナー(CT)
マーティン・ヒル(T)
デイヴィッド・トーマス(B)
による四重唱で
こういうのを典型的な
マドリガルというらしく。
最後に
4挺のヴィオールと
1挺のリュートによる伴奏がつく
と解説では書かれていますけど
CDの方も YouTube の方にも
それがありません。
それより何より
やはり YouTube 版は
フェイドアウトが
途中で切れてませんから
手元のCDはカッティングミス
(というのかな?)
ということがはっきりしました。
困ったものだ……。
……というわけで
乱文長文深謝です。
5枚組全93曲
というボリュームに免じて
ご海容いただければ
幸いに存じます。m(_ _)m