ちょうど、ひと月ほど前

NHK FM《古楽の楽しみ》で

ヘンリー・パーセル特集が組まれ

月曜から金曜までの間に

鍵盤独奏曲が6曲かかり

そのうち5曲が

グスタフ・レオンハルトの演奏だった

ということは

すでに記事にした通りです。

 

 

 

その6曲のうち

残り1曲は

コリン・ティルニーの

スピネットによる演奏でした。

 

CDの規格番号が

公式サイトに載っていたので

試しに検索してみたところ

どうもジャケットに見覚えがある

というわけで、探してみたら

やっぱり以前、買ってて

持ってたものでした。

 

8 Suites for Harpsichord

2 Voluntaries for Organ

《Purcell: 8 Suites for Harpsichord》

(独Archiv: 447 154-2、1995)

 

リリース年は

ジャケットの裏面や

ライナーの別冊解説書を見ても

どこにも載っておらず

Discogs で確認したものです。

 

1995年は

パーセル歿後300年に当たり

それに合わせてアルヒーフが

ライセンスを所持している録音を集め

Purcell Collection として

リリースしたのだと考えれば

符合しますので

間違いないかと。

 

 

録音は

ハープシコード組曲が

1978年1月で

演奏はコリン・ティルニー。

 

併録のオルガン曲は

サイモン・プレストンの演奏で

ヴォランタリー ト長調 Z.720 が1984年12月、

ダブル・オルガンのためのヴォランタリー

ニ短調 Z.719 が1985年11月です。

 

サイモン・プレストンの演奏の原盤は

1986年にポリドールから

リリースされたもののようですが

そちらについては、またいずれ

ということにして

以下はティルニーの演奏した

鍵盤曲中心の内容となりますこと

ご了承ください。

 

 

コリン・ティルニーが弾いているのは

スピネットという小型チェンバロで

弦が鍵盤に対して斜めに張られ

それによって小型化を実現しています。

 

例によって

影踏丸さんの記事の説明が

写真も豊富ですので

以下に貼り付けておきます。

 

 

自分も含めて多くの人には

情報が多すぎて

専門的すぎる印象を

与える気もしますけど

適当に流し読みして(苦笑)

アウトラインが分かればいいかと。

 

そもそも

ベントサイド bentside とは

どういう意味かも書いてありませんが

(これは Wikipedia も同様です)

bent は「曲がった、カーブした」という意味だと

手元の辞書にありますので

side すなわち「片方に」曲がった

楽器の形状を指しているんでしょうね。

 

 

影踏丸さんの記事には

動画も貼られていますので

音色も分かりますし

むしろそちらの方が

ありがたいかも。

 

ティルニーの演奏で聴いても

そうですけど

音色的には

ほとんどチェンバロと変わらない

というか、自分の耳だと

区別がつきません。(^^;ゞ

 

 

ティルニー執筆の

ライナーの解説によると

ケント州在住の個人所蔵になる

年代不詳の英国製スピネットを

使用したそうですが

製作者の署名はなく

CAというイニシャルがあるのみ。

 

ティルニーはこのイニシャルから

ジョン・プレイヤーの工房にいた

コートン・アストンではないか

と推察しています。

(ジョン・プレイヤーの工房って何?

 って感じですがw)

 

楽器の形状は

パーセルの本に収録された

'Instructions for Beginners'

(初心者のための教則)

という文章に描かれている図面と

ほぼ同じ外観なのだとか。

 

ここらへんは

いかにも古楽奏者っぽいこだわり

という感じがしますね。

 

 

ティルニーが演奏する

8つのハープシコード組曲は

パーセル歿後の1696年に刊行された

A Choice Collection of Lessons

for the Harpsichord or Spinet

(ハープシコードまたはスピネットのための

選りすぐりのレッスン集)に

収録されたものです。

 

ハープシコードこと

チェンバロによる演奏は

割とあると思いますけど

スピネットによる演奏となると

珍しいかもしれません。

 

 

ちなみに

上記「初心者のための教則」は

同書に収録されているようで

執筆者の署名はありません。

 

以前はパーセルの執筆と

思われていたようですが

最近の研究では

1697年に刊行された

トーマス・ウォルシュの

The Harpsichord Master から

採られたものではないか

と考えられているようです。

 

『選りすぐりのレッスン集』は

パーセル未亡人フランシスが主導して

上梓されたものですが

「初心者のための教則」の場合

版元のヘンリー・プレイフォードが

勝手に収録したのではないか

と考えられているようですね。

 

 

『選りすぐりのレッスン集』には

アン女王への献辞が

付されているようです。

 

ところで以前、当ブログで

グスタフ・レオンハルト盤

《パーセル&ブロウ:

 オルガン&チェンバロ作品集》を

ご紹介しました。

 

レオンハルト《パーセル&ブロウ: オルガン&チェンバロ作品集》

 

こちらのディスクの

ライナー小冊子の解説で高橋昭が

「アン女王に献げられた8曲の組曲」

と書いていたのは

上に書いてきたことを

踏まえたものでしょう。

 

高橋の文章だけでは

パーセルが直接

アン女王に献げたものと

思っちゃいますよねえ。

 

今回の盤の

ティルニーの解説と

以前、ちょっと触れたことのある

ブリリアント盤パーセル室内楽全集の

ライナーに寄稿している

デイヴィッド・モンクール

(David Moncur)の解説を

DeepLに訳してもらって読んで

ようやく腑に落ちた次第です。

 

 

それはともかく

8つの組曲はそれぞれ

3〜5曲の舞曲で構成されていて

各曲は1〜2分程度

長くても3〜4分程度で

1曲1曲は短いものです。

 

《古楽の楽しみ》でかかった

組曲 第7番 ニ短調の3曲目

ホーンパイプ〉も

49秒しかありません。

 

それでも

1曲ずつではなく

組曲ごとにまとめて聴くと

スピネットの優しい響きとも相まって

充実した音楽空間が広がる感じがされ

小曲の集まりではありながら

さすがはパーセル

と思わしむるものがあります。

 

演奏も落ち着いていて

親しみの感じられる

優れたものだと思います。

 

スピネットは今でいえば

アップライト・ピアノのような

家庭用の鍵盤楽器

という位置付けでしょうから

ティルニーの演奏に

親しみが感じられるのは

家庭的な雰囲気が醸し出される

スピネットだからこそ

といえるかもしれません。

 

単に

スピネットが

家庭用の楽器だと知った

後付けによる個人的な印象

ということなのかも

しれませんけど。

 

 

昔、本盤を

直輸入盤でありながら買ったのは

チェンバロを含めた当時の鍵盤楽器に

(特にその音色の違いに対して)

関心があったからでしょう。

 

おそらくは

輸入盤なので安い

ということも

購入に一役

かっていたでしょうけど。( ̄▽ ̄)

 

いずれにせよ

しばらくは、よく聴いていた

というふうに記憶しています。

 

 

調べてみたら

コリン・ティルニーは

昨2024年12月17日に91歳で

亡くなっていることが

分かりました。

 

2021年(録音は2019年)に

バッハのパルティータ集を

リリースするなど

亡くなる直前まで

といえるくらい

演奏家として現役だったようです。

 

パーセルをきっかけにして

若い頃(といっても45歳ごろ)の演奏を

聴き直すことになったわけですが

奇しくも遅ればせの追悼となり

不思議な巡り合わせに

驚いている次第。

 

今回も長文になりましたが

不思議な巡り合わせに免じて

ご海容いただければ幸いです。m(_ _)m