手元にあるガイドブック
(例えば那須田務『名曲名盤バッハ』や
『文藝別冊/バッハ』など)で
《コーヒー・カンタータ》の名盤として
推奨されることが多い1枚が、こちら。
(日本フォノグラム PHCP-5303、1995.3.25)
原盤レーベルはフィリップス。
録音は
1994年1月28〜30日に
ロンドンの
ヘンリー・ウッド・ホールで
行われました。
器楽演奏は
グスタフ・レオンハルト指揮
エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団。
エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団
略称OAEは1986年設立の
イギリスのオーケストラで
エイジ・オブ・インライトゥンメント
というのは〈啓蒙主義時代〉
ないし〈啓蒙時代〉という意味です。
《コーヒー・カンタータ》の歌い手は
ソプラノがバーバラ・ボニー
バスがデイヴィッド・ウィルソン=ジョンソン
テノールがクリストフ・ブルガルディンです。
自分はレオンハルト・ファンですので
本盤は出た時すぐに買いました。
ですから一度、通しで聴いてますが
当時は声楽曲にはあまり関心がなく
何回か聴いただけで
棚の肥やしにしてました。(^^ゞ
今回、久しぶりに
聴き直した次第です。
バーバラ・ボニーのリースヒェンは
上掲のガイドブックだと
評判がいいんですけど
改めて聴いてみたところ
やや線が細い印象があります。
あと、特に2番目のアリアでの
声の伸びがイマイチかなあ。
シュレンドリアンを演じる
ウィルソン=ジョンソンは
旧弊居士っぽさが出ていて
これはなかなかいい感じでした。
レオンハルトの指揮だけあって
上品で趣味の良さが感じられる演奏ですが
いろいろと聴いてきてから聴き直すと
やや微温的な感じが拭えません。
特に最後の三重唱が
テンポが遅めなこともあって
おとなしいというか
物足りなさを感じさせなくもなく。
リリースされたのが
すでに30年近く前になりますし
手元のガイドブックも古く
現在でも名盤として
推奨されているのかどうか
微妙なところかもしれません。
レオンハルト命というところから
ずいぶん遠くにきてしまったなあ
と我ながら思ったことでした(苦笑)
併録のカンタータ第213番
《心を配り、見守ろう》
通称《岐路に立つヘラクレス》ないし
《ヘラクレス・カンタータ》は
ザクセン皇太子11歳の誕生日に
ライプツィヒにあるツィンマーマンの
コーヒー・ハウスで演奏された
祝賀カンタータにして音楽劇
(ドラマ・ペル・ムジカ)です。
演奏は
《コーヒー・カンタータ》と同じですけど
アルト(カウンターテナー)のラルフ・ポプケンと
エイジ・オブ・インライトゥンメント合唱団
そしてカウンターテナーの
リチャード・ウィン・ロバーツが
新たに加わります。
とある岐路(分かれ道)に立つヘラクレスが
甘い生活に誘惑する「快楽」と
徳と名誉に関わる生活を勧める「美徳」に出会い
「美徳」を選ぶというエピソードに基づくもので
まあ一種の帝王学を歌ったものですね。
こちらも聴くのは久しぶりで
実をいえば手元にあるのは
レオンハルト盤だけだったりします。
古楽演奏盤でなければ
シュライヤー盤を持ってることを
今、思い出しましたけど
実はまだ聴いていないという。(^^;
ソプラノのバーバラ・ボニーは
こちらでは「快楽」を演じており
〈お眠り、最愛の人よ〉という
有名なアリアを歌いますが
ヘラクレスは「美徳」を選ぶので
「快楽」の登場は最初のここだけ。
リースヒェンを歌った時とは違い
子守唄調の旋律も与ってか
嫋々と歌われていて
なかなかの名唱だと思いました。
カウンターテナーは
ヘラクレスのアリアにおいて
彼の問いに答える
木霊(エコー)の役だけで
「ナイン」「ヤー」しか
セリフがありません。
ものすごい贅沢な使い方ですね。
ヘラクレスの歌い手がアルトなのは
皇太子が11歳なのに
合わせたからでしょうか。
それとも
ヘラクレスが
まだ若い頃のエピソードだから
ということなのか。
ヘラクレスがアルトでも
全体的に男性的な雰囲気があるのは
AOEの器楽演奏が歯切れが良く
勇壮な感じを受けるからでしょうか。
男性的とも言われることのある
レオンハルトの性格が
よく現われている演奏
といえるかもしれません。
《コーヒー・カンタータ》に比べると
断然いいと思いましたけど
他の演奏者による
最新の演奏を聴いたりしたら
また違う印象を持つかもしれません。
古楽演奏は
新しくなればなるほど
刷新されていくのが習いですから。
そういえば
《ヘラクレス・カンタータ》の
冒頭と最後の合唱では
2本のホルンが参加しています。
日本語ライナーには
奏者が誰か書かれておらず不詳。
古楽器演奏ですから当然
単管を丸めただけの
ナチュラルホルンだと思いますが
それだけにというべきか
さすがにちょっと弱い気もしました。
とはいえ
全体が男性的でありながら
優美な演奏だけに
さほど弱さは目立ちません。
そこは
さすがレオンハルト
というべきところなのかも。