以前、ヘンデルのチェンバロ曲
《調子のよい鍛冶屋》の
取り上げた際に
トレヴァー・ピノックが
演奏している盤が2枚ある
と書いたことがあります。
当時は両方とも
持ってなかったんですけど
その後、いつだったか忘れましたが
アルヒーフ盤を入手。
ヴァンガード盤は
確定申告のために訪れた先の
BOOK•OFFで
見かけたことがあります。
残念ながらキャップこと
タスキ(オビ)が欠けていたので
買うのを見送っているうちに
翌年か翌々年だかに
誰かに買われてしまったのか
棚から消えていたという
苦い経験があるのでした。
それから
どのくらい経ったのか
分かりませんけど
先日、新宿のディスクユニオンで
ようやくキャップ付きを
見つけたのでした。
もちろん
といっていいのかどうか
分かりませんけど
BOOK•OFFよりも
安かったです。
そのヴァンガード盤がこちら。
(キングレコード KICC-2262、1993.3.24)
原盤レーベルが
ヴァンガード・クラシックスで
ジャケットの裏側に
Recorded around 1976
とありますから
1976年ごろの録音ですね。
この頃、キングレコードでは
「イギリス古楽界のエース、
ピノック若き日の名盤。」
という惹句を添えて
本盤も含めて5種類ほど
リリースしていたようです。
《調子のよいかじ屋》には
「トレヴァー・ピノック・アット・ザ・
ヴィクトリア&アルバート博物館」
という副題がついてますが
本盤ではその両博物館が保存している
楽器を使用して演奏されています。
エリザベス女王が弾いていたとされる
ヴァージナル(箱型のチェンバロ)で
作者不詳の楽曲
「レイディ・ウィングフィールドのラウンド」
および、ウィリアム・バード作曲の
「女王のアルマン」「鐘」が
演奏されています。
ハム・ハウス・ハープシコードによって
ヘンデルの組曲 第5番 ホ長調
通称「調子のよいかじ屋」が演奏され
カークマン・ハープシコードで
レイナルド・アーンのソナタ第3番 ト長調と
J・C・バッハのソナタ ハ短調 作品5の6
が演奏されています。
J・C・バッハは
大バッハの息子であり
イギリスで活躍したので
ロンドンのバッハと
呼ばれている人です。
オール・イギリス・プログラムで
異なる3つの楽器しており
ライナーでも各楽器について
その由来が説明されているなど
古楽黎明期の雰囲気が感じられる
1枚になっています。
ちなみに
「調子のよいかじ屋」は
通常演奏される終曲(第4楽章)の
「エアと変奏」だけではなく
第5番の全曲が演奏されています。
びっくりしたのは
ライナーの最終ページに載っている
若い頃のピノックの写真で
長髪なので今とは全然
イメージが違ってて
イケメンのバンドメンバーみたい。( ̄▽ ̄)
その後、東京に初来日した際
音楽の友ホールで録音したのが
アルヒーフ盤になります。
(ポリドール POCA-2506、1996.5.2)
〈アルヒーフSUPERセレクション〉
というシリーズものの第3巻として出た
再発盤になりますので
リリース年が1996年ですけど
原盤は1985年4月1日に出ており
録音は1983年11月です。
こちらは
ヘンデルの〈調子の良い鍛冶屋〉
(組曲 第5番 第4楽章のみ)を皮切りに
J・C・F・フィッシャーのパッサカリア
フランソワ・クープラン〈神秘的なバリケード〉
大バッハお馴染みの名曲、イタリア協奏曲
J=P・ラモーのガヴォットと6つのドゥーブル
ドメニコ・スカルラッティのソナタが2つ
J=E・フィオッコのアダージョ
L=C・ダカン〈かっこう〉
C=B・バルバストル〈ラ・シュザンヌ〉
と、オール・イギリスにこだわらず
バロック時代の鍵盤音楽を俯瞰した
アンコール・ピース集になっています。
〈調子のよい鍛冶屋〉は
中野盤を取り上げた記事の中で
アルヒーフ盤はアンコール・ピース集らしく
組曲 第5番の第4楽章しか
演奏されていない
と書いた通り。
使用楽器は
18世紀フレンチ・タイプの
コピーを使用しているそうですけど
それだけにというべきか
音の響きがヴァンガード盤に比べて
華やかで派手な感じ。
自分の好みでは
ヴァンガード盤の方が
いいかなと思いましたけど
バロック時代の様々な曲を弾くなら
特にバッハのイタリア協奏曲の場合
アルヒーフ盤の方がいいという気も
しないではありませんけどね。
〈調子の良い鍛冶屋〉が
組曲全曲を通して聴けるのも
ヴァンガード盤の方に
軍配を上げる理由の
ひとつではあるんですけど。
ただしヴァンガード盤は
なかなか見かけることが少ないのが
難といえば難でしょうか。
ちなみに
皆川達夫が
『バロック名曲名盤100』(1977)の
第14刷(1988年刊)で
追加であげているのは
アルヒーフ盤の方です。