(左:2021/羽田詩津子訳、
ハヤカワ・ミステリ、2022.11.15
右:2022/同、2023.7.15)
先にご案内の
アガサ・クリスティーの作品を読む
ブッククラブの面々が
事件の謎を解くという
集団素人探偵もののシリーズでした。
今回ご案内の
木曜殺人クラブ・シリーズも
集団素人探偵ものですが
全員がゲイテッド・コミュニティに住む
年金生活を送る高齢者で
迷宮入りした事件を再調査することを
目的とする集まり
というのが基本設定です。
年金生活を送る高齢者とはいえ
基本メンバー4人の前歴は
精神科医や看護師という
「普通」の職業だった人以外に
極めて特殊な人もいるので
いわばスーパー高齢者であって
マーダー・ミステリ・ブッククラブのような
素人集団とは一味も二味も違います。
作者は
アメリカのテレビドラマ
《特攻野郎Aチーム》(1983〜87)を
イメージして書いているそうで
当のドラマを観たことのある人なら
だいたいイメージは摑めるのではないか
と思います。
おととし(2021年)の9月に出た
シリーズ第1作の
『木曜殺人クラブ』(2020)は
自分も読んでますが
ちょっとピンとこない
というところもありまして。
ですが
今回読んだシリーズ第2作は
今年度のベスト10候補の1冊に
充分値するのではないか
というくらい
たいへん面白く読み終えました。
その勢いを借りて
今月出たばかりの
シリーズ第3作も
読み終えた次第ですが
どちらがいいかと問われれば
個人的には第2作の方を
推したいですかね。
『二度死んだ男』は
木曜殺人クラブのメンバー
エリザベスが
因縁浅からぬ英国諜報員から
2万ポンドのダイヤを盗んだ廉で
マフィアから命を狙われている、
助けてほしいといわれて……
というお話。
そうした事件の一方で
木曜殺人クラブのメンバー
イブラハムが路上強盗に遭いますが
直接証拠がないために
犯人は逃げおおせそうだと分かり
残りのメンバーが犯人に罠をかける
という計略が描かれます。
物語は短い章を積み重ね
目まぐるしく場面を変えながら
進んでいくわけですが
ストーリーテリングが上手いので
混乱することなく読めます。
ミステリとしては
謎解きもののお約束である大ネタが
こちらの思考を誘導して
見事にどんでん返しを
決めています。
細かい秀逸なアイデアが
いくつか盛り込まれていて
伏線の方も怠りなく
「お見事」の一言に尽きますね。
作中に
メンバーの一人が
ジェフリー・ディーヴァーを借りて
読んでみたらすごく面白い
という場面がありますけど(p.129)
まさにディーヴァーのような
騙しのテクニックと
ストーリーテリングを
彷彿させるような感じがしました。
『逸れた銃弾』の方は
10年前に地元ニュースキャスターが
奇妙な失踪を遂げて
殺されたと目されている事件を
再調査しようとするお話。
その一方で
エリザベスが攫われて
ちょっとした因縁のある
かつての知り合いを殺すように言われ
そのミッションを受けなければ
友人のジョイスを殺す
と脅される話が絡んできます。
こちらは
オフビートなストーリー展開が
さらに際立っている感じで
謎解きの面白さも
なくはないですけど
ストーリーテリングで読ませる
という印象が強かったですね。
エリザベスを脅迫した男が
意外とへなちょこなあたり
イギリス・ミステリらしい
オフビートさだと思ったんですけど
読み手によっては
馬鹿にされたようにも
感じるかもしれません。
他にも
読者の思い込みの
関節を外すようなところが
特に後半になってから
次々と出てきて
それを笑えるかどうかで
評価が変わってくるのではないか
と思ったりしました。
そういう意味では
『逸れた弾丸』の方が
面白いといえなくもないですけど
ここではミステリ的な
サプライズの決まり方の
見事さを評価して
『二度死んだ男』の方を
推したいと思う次第です。
プロット以外の部分では
キャラクターのほとんどが
後期高齢者にあたるので
後期高齢者特有の問題に
筆が割かれることもしばしば。
なかでも
エリザベスの夫が
認知症を患っていて
シリーズを重ねるごとに進行し
それによって周囲の人間を
戸惑わせ悲しませるという描写は
身につまされます。
『逸れた銃弾』では
地元の有名なニュースキャスター
(失踪したキャスターの同僚)の
キャラと背景に関して
これも身につまされる感じ。
元KGB将校の現在の想いにも
しみじみとしたものを
感じさせます。
こうした人間描写と
ミステリ的要素との
バランスの良さというか
お約束のキャラ設定であっても
通りいっぺんのキャラだなあ
と感じさせないところが
本シリーズの美点でもあります。
シリーズ第1作の
『木曜殺人クラブ』が出た時
ハヤカワ・ミステリ(通称ポケミス)なのに
ビニールカバーではなく
普通のノベルスのような
紙カバーで出たので
びっくりしたことを覚えています。
今回の第2作、第3作も
ビニールカバーではなく
紙カバー仕様なので
このシリーズのみ
このスタイルで出すんでしょうけど
なぜまたそうなのか。
なんとも不思議なことですが
ビニールカバーは
湿気の多い日本の環境だと
縮むことが多いので
これはこれでいいかな
とか思ったり。
まあ、複数冊出ましたから
こういうのもありかな
と馴れちゃっただけかも
しれませんけどね。( ̄▽ ̄)
あと
通常のポケミスは
二段組なんですが
本シリーズは一段組
というのにも
びっくりさせられたことを
備忘のために書いておきましょう。
これまでにも一段組のものが
なかったわけではありませんけど
(だと記憶しております。
記憶違いの場合はご容赦w)
これに関しては
基本的に二段組の方が好き
ということもあり
やや違和感があることを
付け加えておきましょう。