講談社文庫で出ている

日影丈吉の短編集を読んだ

という記事を以前

アップしました。

 

その1年前に

社会思想社が出していた

現代教養文庫から

『日影丈吉傑作選』が

4冊出ています。

 

そのうちの3冊が短編集で

今回その内の2冊を読んでみました。

 

現代教養文庫『かむなぎうた』『猫の泉』

(左:1978年7月15日発行

 右:1978年7月30日発行)

 

こちらも読むのは今回が初めてですが

最後のページに値段が書かれていたり

値段の札が付いていたりしないので

新刊で買ったものかもしれません。

 

当時、現代教養文庫では

〈ロマンの饗宴/異色作家傑作選〉

という総題のもと

夢野久作傑作選(全5冊)

小栗虫太郎傑作選(全5冊)

久生十蘭傑作選(全5冊)

橘外男傑作選(全3冊)

香山滋傑作選(全3冊)

山田風太郎傑作選(全4冊)

というものを出しておりまして

日影丈吉はその最終配本というか

第7弾にあたるのでした。

 

 

上掲写真左の『かむなぎうた』は

「かむなぎうた」(1949.12)

「飾燈」(1957.8)

「時代」(1960.4)

「月夜蟹」(『幻想博物誌』)

「吉備津の釜」(1959.1)

「饅頭軍談」(1963.10)

「東天紅」(『狐の鶏』)

「ふかい穴」(1968.9)

「人形つかい」(1976.6)

「粉屋の猫」(1976.12)

「男の城」(1961.8)

の全11編収録。

 

上掲写真右の『猫の泉』は

「猫の泉」(『幻想博物誌』)

「大きな鳥のいる汽車」(1977.1)

「彼岸まいり」(1958.4)

「変身」(1955.12)

「大統領の私設秘書」(1967.6)

「崩壊」(1968.11)

「鵺の来歴」(『幻想博物誌』)

「綴方教室」(1961.10)

「ねじれた輪」(1958.7)

「月あかり」(1958.9)

「ねずみ」(『狐の鶏』)

「吸血鬼」(1975.8)

の全12編収録。

 

カッコ内の数字は発表年月で

二重鍵カッコは

講談社文庫版に既収の

作品集の名前です。

 

ご覧の通り

講談社文庫版の全11編中

5編しかダブっておらず

当時、現代教養文庫版も

持っている意味が

あったのでした。

 

出版された順番でいえば

現代教養文庫版を持ってても

講談社文庫版を買う意味があった

というべきかしらん。

 

 

『かむなぎうた』で面白かったのは

デビュー作でもある表題作のほか

「飾燈」「吉備津の釜」

「饅頭軍談」「男の城」の4作品。

 

『猫の泉』で面白かったのは

「大きな鳥のいる汽車」

「崩壊」「綴方教室」

「ねじれた輪」の4作品。

 

講談社文庫で既読の

「猫の泉」「鵺の来歴」を足せば

23編中11編と

だいたい半分くらいで

あまり打率は良くないかも。

(それともいい方なのかな?)

 

まあ、自分の趣味は

いささか偏っていますから

あまりアテにはなりません。( ̄▽ ̄)

 

 

「飾燈」は

アジア・太平洋戦争前の日本で

いっとき陪審員制が

行なわれていたことがあり

それが描かれているのが興味深い。

 

それとやっぱり

「写し絵」をめぐる考証的記述が

面白いですね。

 

ちなみに本作品中に、

語り手が幻燈機をいじっている時

「種板をすかして見る色の世界からは、

 チェンバロ音楽が聞こえてくるのだ。

 ヘンデルの組曲の、ジグやマドリガルが

 聞こえてくるのだった」

というフレーズがあって

嬉しくなったりもしたり。

 

もっとも

ヘンデルのチェンバロ組曲に

マドリガルがあったかしらん、

マドリガルというのは舞曲ではなく

世俗歌曲を指すはずなんだけどなあ

と首をひねらされもしましたけど。( ̄▽ ̄)

 

 

「吉備津の釜」は

雨月物語みたいな話かと

読む前は思ってたんですが

全然違ってました。

 

金策の当てがついて

隅田川を渡っていくうちに

子どもの頃のことを

いろいろと思い出し

それが意外な結末につながっていく

その語りの見事さが印象的です。

 

 

「饅頭軍談」も

時代考証小説かと思わせて

最後でうっちゃりを喰らわせるのは

見事でした。

 

もっとも

そのうっちゃりが

あっさりしすぎていて

最初はよく意味が

分からなかったりも

しましたけど。(^^;ゞ

 

 

「男の城」と「ねじれた輪」は

いずれも、いわゆる心理ミステリで

精神分析的なものを扱っていますが

謎解きの面白さという観点だと

前者に軍配が上がるかも。

 

前者は日影自身が編んだ

『法廷ミステリー傑作選』に

 

ベストブック社『処刑者消失』

(ベストブック社 Big Bird NOVELS

 1976年7月20日発行)

 

採られていますので

本人にとっても

自信作なのかもしれません。

 

 

「大きな鳥がいる汽車」は

海外を舞台にした

列車内密室ものです。

 

トリックはちゃっちいですけど

この作者にしては珍しいので

印象に残った次第。

 

トリックよりも

なぜ自分が狙われたのか

という理由の方が

面白かったです。

 

 

「崩壊」は

どことなく海野十三を

連想させるような感じの

SFです。

 

異国を舞台として

スケールの大きいアイデアと

語り口の迫真性が

印象的でした。

 

 

「綴方教室」は

この作者が得意とする

アンファン・テリブルもの。

 

それよりもむしろ

真相を突き止めるカメラマンを

語り手が嫌うところが

印象に残りました。

 

 

子どもが絡むものと

過去を回想するもの、

田舎が舞台となる

いわゆる土俗ものが

持ち味になっていて

主としてそういう作品を

面白く感じた次第です。

 

江戸川乱歩が絶賛し

折口信夫が関心を示したという

「かむなぎうた」は

上に書いた要素が

すべて詰まっています。

 

デビュー作に

作者のすべてが現れるとは

よくいわれることですが

改めて確認させられた次第。