ちょっと必要があって
かつて講談社文庫で出たことがある
日影丈吉の短編集を
読んでみました。
(左:1979年2月15日発行
右:1980年10月15日発行)
いずれも1972年に
学藝書林から出ていた
短編集の出し直しで
『狐の鶏』の方は
学藝書林版だと
『恐怖博物誌』
という総題でした。
文庫版表題作の「狐の鶏」は
日本推理作家協会賞受賞作なので
そちらをタイトルにした方が
セールス的にいいだろう
ということで改題されたもの
だと思われます。
ちなみに
『恐怖博物誌』という総題の本は
1961年にも出ていますけど
そちらとは内容が
微妙に異なっています。
買った当時は
貧乏学生だったので
両方とも古本で買いました。
『幻想博物誌』に
パラフィンがかかっているのは
そのためですけど
実をいえば
読むのは両方とも
今回が初めてです。(^^;ゞ
上掲写真左の『狐の鶏』は
「狐の鶏」(1955.10)
「ねずみ」(1959.9)
「犬の生活」(1962.7)
「王とのつきあい」(1964.4)
「東天紅」(1957.1)
の全5編収録(カッコ内は発表年月)。
上掲写真右の『幻想博物誌』は
「月夜蟹」(1959.5)
「蝶のやどり」(1955.6)
「猫の泉」(1961.1)
「からす」(1960.1)
「オウボエを吹く馬」(1950.5)
「鵺の来歴」(1957.9)
の全6編収録(カッコ内は上に同じ)。
いずれも生物が
タイトルやモチーフになっている
というのが特徴になっています。
東天紅というのは
暁に鳴く鶏のことで
だとすると「狐の鶏」と
モチーフがダブるわけですが
「狐の鶏」は狐がモチーフ
ということなんでしょう。
(別にダブってもいいわけですけど
ついつい別物と考えたくなりますw)
「王とのつきあい」の「王」は
王蛇のことです。
印象的な作品としては
田舎を舞台とする
「狐と鶏」「東天紅」「月夜蟹」
戦時中の台湾が舞台の「ねずみ」
戦前の亀戸天神が舞台の
「鵺の来歴」あたりが
まずあげられるでしょうか。
あとは
フランスの不思議な村を訪れた
カメラマンの体験を描く「猫の泉」と
大正時代の貴族の屋敷で起きた怪異を描く
「オウボエを吹く馬」
あたりかなあ。
11編中7編が
印象に残るわけですから
これは打率がいい。
(という言い方であってます?
野球音痴なのでw)
もっとも
「狐と鶏」などは
方言がバンバン出てくるので
かなり読みづらいです。
古本で買った当時は
大学生でしたけど
読んでいたとしても
途中で投げ出してた
かもしれません。
「オウボエを吹く馬」は
現代のいわゆる新本格ミステリに
近い味わいを持つ作品ですけど
メインとなる事件とは別の
最後に明かされる真相が
とんでもないですね。
そのとんでもなさを
受け入れられるかどうかが
キモだろうと思います。
それはそれとして
貴族趣味を彷彿させる
ディレッタントな描写が
お気に入りなんですけど
スタンランに
「オウボエを吹く曲芸団の馬」
という画題の絵があると
書かれているのは
ホントなんでしょうか。
検索してもヒットしないのが
悩ましいところなのでした。
両方とも巻末に解説がついていて
『狐と鶏』は安間隆次
『幻想博物誌』は杉本零が
それぞれ執筆していますけど
杉本零の解説がいいです。
杉本は
高浜虚子に師事した俳人のようで
今回、初めて解説を読みましたが
初刊本に言及して異動にふれ
簡単な経歴にも言及し
「推理小説好きの友人達の
感想」を紹介しつつ
簡にして要を得た日影論を展開する
その書きっぷりに
感心してしまいました。
いい小説だとか
文学的だかという
ストックフレーズを一切使わず
文学論的に納得させるあたり
脱帽としかいいようがない。
この解説が読めるだけでも
講談社文庫版を
買っておいた甲斐が
あったというものです。