『わかつきめぐみ迷宮探訪』

ロング・インタビューの中で

岡本綺堂を最初に知ったのは

「小学生の時に読んだ

 怪談の本に載っていた

 『西瓜』だった」と

話しています。

 

というわけで

綺堂の「西瓜」を

読んでみることにしました。

 

 

「西瓜」が最初に収録されたのは

1933(昭和8)年に春陽堂の

日本小説文庫の1冊として刊行された

『異妖新篇』です。

 

それをそのまま復刻した上に

単行本未収録作品2編を

新たに足したのが

中公文庫版の『異妖新篇

――岡本綺堂読物集六』となります。

 

『異妖新篇』中公文庫版

(中公文庫、2018.2.25)

 

青空文庫にも収録されてますが

紙の本で読む場合は

直近に出たことでもあり

これがいちばん入手しやすいかな。

 

 

中公文庫版の岡本綺堂読物集は

いわゆる再編集ものではなく

1930年代に日本小説文庫で出たものを

そのまま復刻して、増補しているので

たいへん珍しいと思い

なんとか新刊で買い揃えましたが

1冊まるまる読み終える

というのは今回が初めて。(^^ゞ

 

「西瓜」は

解説でも説明されていますが

今の形になるまでに委細あって

そうと知って読むと

また違った味わいを

感じたりしました。

 

ただ、これを

子ども向けにリライトして

紹介することの意味は

よく分かりません。

 

 

いろいろ調べてみたところ

わかつきめぐみが

「小学生の時に読んだ怪談の本」

というのは、おそらく

『世界の名作怪奇館5〈日本編〉

 まぼろしの雪女』

(保永貞夫訳、講談社、1970.7)

だと思われます。

 

のちに同社から

『世界の怪談5〈日本編〉

 へび女ののろい』(1973)

として再刊されたようですので

あるいはそちらかも知れませんけど。

 

 

『世界の名作怪奇館』全8巻は

1970年代の少年少女なら

学校の図書室で見た記憶があろうか

というくらい有名なシリーズ。

 

確か宮部みゆきが

このシリーズでポーの短編を読み

イラストが非常に怖かったと

どこかで書いていたか

話していたような

記憶があります。

 

古書価がめちゃくちゃ高く

児童書ということもあり

今から揃えようとすると

かなり難儀するシリーズなんですが

それはともかく。

 

 

岡本綺堂の「西瓜」は

その『名作怪奇館』の日本編に

「生首にかわったすいか」

と題して収められました。

 

ちなみに同書には

江戸川乱歩の「かがみ地獄」も

収録されていて

それを子どもに読ますのか

と思わないでもありませんけど

自分も小学生の時に

春陽文庫版で読みましたから

別にいいのかな。

 

 

なお、

「生首にかわったすいか」は

のちに講談社から出た

青い鳥文庫Kシリーズの1冊

『幽霊のひっこし』(1996)にも

再録されたようです。

 

2006年にポプラ社から出た

赤木かん子編

『ホラーセレクション2/

語られると怖い話』にも

「西瓜」が収められており

なんだか知らないけど

子ども受けするものと

思われているみたいですね。

 

 

ところで

『異妖新篇』収録作品では

「白髪鬼」も、なかなか面白い。

 

だいたい

江戸時代の話よりも

明治以降の話の方が

怪異に対する

屈折した想いが出るというか

説明がつくところと

つかないところとで

衝突しながらスルーするような

そんな面白さを見出すこともできて

興味を惹かれます。

 

あと、興味深かったのは

「深川の老漁夫」や「五色蟹」。

 

どこがどう興味深いかは

詳しくいうとネタバレにもなるので

ここでは伏せておきます。

 

(中公文庫版で読む場合

 カバー裏の内容紹介は

 読まれないことを

 お勧めします)

 

「深川の老漁夫」のオチ

(最後に入れた註)は

個人的には、なくもがなと

思わないでもありませんけど

どうでしょう。

 

 

また「鰻に呪はれた男」の

温泉場の風景を描く場面で

 

山の裾には胡蝶花が一面に咲きみだれて、その名のごとく胡蝶の群がつてゐるやうにも見えた。(p.134)

 

と書いてあって

「胡蝶花」に「しやが」と

フリガナがついているのを見た時は

以前、当ブログで取り上げただけに

おおっ! シャガだっ!

と感銘を受けたことでした。

 

割と単純。( ̄▽ ̄)

 

 

ちなみに

上の引用でもわかる通り

中公文庫版は新字旧仮名で

組まれています。

 

新字といっても

「証」は「證」になっていたりと

やや不統一の誹りは免れませんが

(誤植もいくつか気になりました)

それはそれとして

ひとつだけ注意すべきなのは

「而[しか]も」という言葉遣い。

 

現在の「しかも」とは違い

「しかるに」という意味で、

今風に書けば

「しかしながら」

「ところが」「だが」

という意味になります。

 

知らないと

最初は戸惑いますので

ご注意ください。

 

以上は蛇足でした。