前々回の記事で
イル・ロッシニョーロ盤
ヴァイオリン・ソナタ HWV364a の
ヴィオラ・ダ・ガンバ版である
HWV364b が収録されているのは
珍しいかも、と書きました。

最初はガンバ版が
収録されていることに気づかず
その記事を書くために聴き直したり

ライナーを見直しているうちに
気づいたのですけど。(^^;

気づくのが遅れたために
ガンバ版を収めたCDはないかしらん
と思って探していたら見つけて
喜んで購入したのが以下の盤です。

アジズ『ヘンデル:ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ集』
(英 First Hand Records: FHR-91、2020)

演奏は
ヴィオラ・ダ・ガンバが
マレーシア生まれの
イブラヒム・アジズ、
チェンバロが山本満寿美。

録音は2019年10月25〜27日です。


First Hand Records って
どこの国のレーベルだろう
と調べていたら
キング・インターナショナルの
レーベル紹介ページに
たどり着きました。

ですから、もしかしたら
キング・インターナショナルから
日本流通盤が出ているっぽいですけど
そんなこととはつゆ知らず
輸入盤を買ったという。

 

それにしても
キング・インターナショナルの
本盤を紹介したページに

トラックリストが載っているのは
ありがたいことはありがたいのですが
ちょっと問題ありかも。

●ヘンデル:
1. ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ ト短調 HWV364b
2. ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ ト長調 (アジズ編)

 原曲: ヴァイオリン・ソナタ イ長調 HWV372
3. ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための「カッセル・ソナタ」

  第5番 ニ長調(伝ヘンデル/J.J.クレス?)
●サント=コロンブ2世:
4. ヴィオラ・ダ・ガンバのための組曲 ホ短調より 前奏曲
●ヘンデル:
5. チェンバロ組曲第1集 第4番 ホ短調 HWV429(ムファット版)
6. ヴィオラ・ダ・ガンバのための前奏曲 ニ短調(アジズ編)

 原曲:チェンバロ組曲第2集 第4番 ニ短調 HWV437より 前奏曲
7. ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のための組曲 ニ短調(アジズ編)

 原曲:チェンバロ組曲 ニ短調 HWV448
8. ヴィオラ・ダ・ガンバとオブリガート・チェンバロのための

  ソナタ ハ長調

たとえば5曲目の
「チェンバロ組曲第1集 第4番 ホ短調
HWV429(ムファット版)」ですけど
これだとムファット(ムッファトとも)が
ヴィオラ・ダ・ガンバ・ソナタ用に
編曲したかのようにも見えます。

実をいえば
5曲目はチェンバロ独奏曲で
ここで名前があがっているムファットは
当ブログで以前、紹介したことのある
ゲオルグ・ムファットではなく
その息子の
ゴットリープ・ムファットです。

 

自分も最近知ったのですが
ムファットには
ヘンデルのチェンバロ組曲第1集に
装飾音を書き込んだ
手沢本があるそうで。

ここで演奏されているのは
そのバージョンというわけ。


4曲目の「プレリュード」を作曲した
サント=コロンブ2世は
映画『めぐり逢う朝』(1991)で有名な
サント=コロンブの息子で
イギリスでヴィオラ・ダ・ガンバの
教師をしていたらしい。

コスモポリタンとして
滞在国の聴衆に
合わせた曲を書いていたのは
ヘンデルと通ずるところがある
というわけで
滞在国の聴衆に合わせた
最初の曲と思われるものを
収録したという主旨らしい。

デュマの例に倣って
サント=コロンブ・フィス
とでも表記すべきでは
と思ったりもしますけど。


6曲目の「プレリュード ニ短調」は
チェンバロ組曲集 第2巻に
収録された曲に基づく
無伴奏曲です。

サント=コロンブ2世の
プレリュードのあとに
チェンバロ組曲を置いたり
ヘンデルのプレリュード
(ガンバ・ソロ編曲版)に続けて
ガンバと通奏低音用に編曲した
チェンバロ組曲を置いたりしているのは
何となくシンメトリックな構成。

何らかの意図があるものと
思われるものの
ライナーでは
特に説明されていない模様。


最後のトラック(8曲目)
「ヴィオラ・ダ・ガンバと
オブリガート・チェンバロのための
ソナタ ハ長調」には
HWVがありませんけど
これは現在、作品目録にありながら
真作性が疑われている作品です。

ヨハン・マティアス・レブロス
(Johann Mattias Leffloth)
の作曲とも思われているそうですが
まだはっきりしていないようで。

その意味では珍しい1曲。


同じくHWVが付いていない
「カッセル・ソナタ」第5番というのは
カッセル大学図書館で発見された、
自身作曲家でありながら
ヘンデルの写譜家も務めたという
ウィリアム・バベル作成の綴りに
基づくものだそうで
世界初録音。

真作性が疑わしく
ここで収録した曲を含まないけど
別の場所で発見された
他のカッセル・ソナタを含む写譜本に
ヨハン・ヤーコプ・クレス作と
記されているので
「伝ヘンデル/J. J. クレス?」
とされている模様。

そうと知って検索してみると
こちら↓のツイートに


https://twitter.com/tinouye/status/1025814828101775360
 

発見年代も含め
詳しく書かれていました。


カッセル・ソナタなんて
存在すら知りませんでした。

新譜のライナーが
最新の研究成果を教えてくれる
例のひとつですね。

真作性が疑わしい曲が聴けるし
知らなかった研究の現状を教えてくれた
という意味では
不見転ながら本盤を購入して
ラッキーだったかも。

もし、日本語解説付きの
日本流通盤があるなら
そちらの方が
もっと良かったけれども。


もちろん、演奏も良かったです。

ガンバの響きには
心を安らがせるものが
ありますね。

おススメの1枚です。