ピエール・フルニエが

カール・ミュンヒンガー指揮

シュトゥットガルト室内管弦楽団と

1950年代録音のチェロ協奏曲集には

 

フルニエ『ヴィヴァルディほか:チェロ協奏曲集』

(英 Testament: SBT-1359、2004)

 

原盤のLPではヴィヴァルディと

カップリングだった

フランソワ・クープランや

ルイジ・ボッケリーニの楽曲も

収められていることは既述の通りです。

 

いずれも

後世のチェリストの手になる

編曲版ですけど

前回のクープランに続き

今回はボッケリーニの楽曲について。

 

 

クープランの原曲について

長々と書いたわりに

結局、不明点を

残してしまいましたけど

ボッケリーニの原曲については

事実関係や原曲が

割とはっきりしています。

 

フルニエが演奏しているのは

チェロ協奏曲 第9番 変ロ長調 G482

なんですが、第2楽章のみ

第7番 ト長調 G480 から

借用しているのだとか。

 

1895年にドイツのチェリスト

フリードリヒ・グリュッツマッハーが

校訂版を出した際に

上記のような修正を加えたそうで。

 

20世紀も半ばを過ぎてから

自筆譜と照らし合わせることで

判明したにもかかわらず

アレンジが見事だったことから

グリュッツマッハー編として

しばしば演奏されることも

あるのだとか。

 

むしろ

グリュッツマッハー版によって

ボッケリーニの第9番が

ボッケリーニの楽曲の中では

よく知られる曲になったそうで

これには驚きでした。

 

 

以上は Wikipedia の

グリュッツマッハーの項目と

それとは別に項目立てされている

チェロ協奏曲第9番(ボッケリーニ)

の説明によります。

 

チェロ協奏曲第9番の項目が

別に立っていること自体に

びっくりさせられたんですけど

それはともかく。

 

 

ボッケリーニは

チェロ協奏曲を10曲ほど残していて

それらは幸いにも手許にある

37枚も収録したボックス

『ボッケリーニ・エディション』に

すべて収録されていました。

 

『ボッケリーニ・エディション』(37CD)

(蘭 Brilliant Classics: 94386、2012)

 

演奏は

エンリコ・ブロンツィの

チェロと指揮を務める

アカデミア・イ・フィラルモニーチ

・ディ・ヴェローナで

録音は2005年です。

 

原盤も Brilliant から

3枚組でリリースされました。

 

 

それにしても

グリュッツマッハーは

なぜ第2楽章だけ

他の曲から借用したのか

理解に苦しみます。

 

グリュッツマッハーが校訂した頃は

まだ自筆譜が完全な形で

発見されてなかったんでしょうか。

 

 

グリュッツマッハーは

バッハの無伴奏チェロ組曲も

和音やパッセージなどを

書き替えるなどして

「編曲」したそうです。

 

シューマンやブゾーニのような

例もありますので

グリュッツマッハーばかりを

一概に悪くいうことはできませんが

自分の楽曲が正確に演奏されなければ

声を大にして文句を言うでしょうに

古い時代の作曲家の曲なら

「より良く」してもかまわない

と思うロマン主義の自我のありようは

いっかな天才のやることだとしても

あまり好きになれません。

 

 

アーノンクールの

『音楽は対話である』(1984)を

読んで受けた印象だと

自分の楽曲は正確に、という考え方は

モーツァルトあたりから見られ始め

ベートーヴェン以降

当り前になっていったようです。

 

にもかかわらず

バロック時代の楽曲は

不完全なものとして

手を加えられることが多いことに

苦言を呈してました。

 

そういう苦言を呈した文章が

(執筆は1960年代かもしれませんけど)

1980年代前半刊行の本に

収録されたことは

そうした問題が薄れていないことを

よく示しているといえるでしょう。

 

 

バロック時代にも

例えばヴィヴァルディの

パスティッチョ・オペラのように

つぎはぎの作品があったということは

以前にもちょっと書きました。

 

でもそれはバロック時代だからこそで

ベートーヴェン以降の音楽家たちは

自作品のオリジナリティを大切に思い

改変は許されないと

思っていたにもかかわらず

古い作品は劣っているのが当り前

という考え方をして

平気でいじっていたわけですからね。

 

時代によって

聴衆の音楽の趣味や美意識、

作曲家の持つ音楽観のありようは

変わるものですし

時代思潮に合わせさるを得ない、

逃れられないという

事情や背景もあるとはいえ

どうにも引っ掛かりを覚えるわけです。

 

 

なお、ボッケリーニの作品番号は

歿後に出版された際に

版元が勝手に付けた番号と

1969年になって音楽学者が付けた

ジェラール番号がある

ということは以前にも書いた通りです。

 

今回のチェロ協奏曲の場合

ジェラール番号は上記の通りですが

旧番号だと

第7番 G480 が作品4の11

第9番 G482 が作品4の13

であることを

付け加えておきます。

 

ボッケリーニが

自ら付けた作品番号は

存在しないようです。

 

 

ちなみに本曲にも

ルドルフ・バウムガルトナー指揮

ルツェルン音楽祭弦楽合奏団との

演奏盤があります。

 

YouTube にアップされていますので

どんな曲か、興味のある方は

そちらでご確認ください。

 

 

第1楽章の出だしなど

ボッケリーニが

モーツアルトと同時代人である

ということを強く意識させる

個人的な印象ですけど

そんな感じがします。

 

 

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