CD&DVD版 洋楽渡来考(外箱)

(日本伝統文化振興財団 VZZG-1、2006.7.1)

 

販売はビクターエンタテインメントです。

 

こちらは以前、

池袋のディスクユニオンで

見つけたものですが

定価を確認したときは

あまりに安くなっているのに驚いて

(半値以下の値付けでした)

即行で買ったものです。

 

買って満足したのと

慌てて聴くような性質のものでもないので

しばらく開封しないままだったんですが

亡くなった監修者への追悼から

視聴することにした次第。

 

 

封入されているディスクは

第一部『サカラメンタ提要』

第二部 東京国立博物館蔵

 『キリシタン・マリア典礼写本(耶蘇教写経)』

第三部 生月島[いきつきしま]の

 「かくれキリシタン」の「オラショ」

という3枚のCDと

『オラショ 〜生月島のかくれキリシタン〜』

というDVDが1枚。

 

CD&DVD版 洋楽渡来考(封入ディスク)

 

これに、下掲写真左の

72ページの解説書が付いています。

 

CD&DVD版 洋楽渡来考(別冊解説書)

 

『サカラメンタ提要』は

先に紹介した『洋楽事始』とは異なり

橋本周子指揮

聖グレゴリオの家 聖歌隊

カペラ・グレゴリアーナの

男声歌手陣です。

(2005年8月録音)

 

またオラショは

1980年4月に採録した

山田集落および壱部集落のものと

境目集落の歌オラショを収録。

 

境目集落の歌オラショは

『洋楽事始』と同じ音源です。

 

そして歌オラショの原曲にあたる

ラテン語聖歌の3曲を

中世音楽合唱団によって

男女混声で歌われたものを収録。

 

指揮は『洋楽事始』とは異なり

片山みゆきによるもので

録音年月は不詳ですが

2005年から翌年にかけてでしょうか。

 

DVDは1990年および1992年に

それぞれ別の撮影者によって

撮られたものを

1本にまとめて収録しています。

 

 

『キリシタン・マリア典礼写本』は

東京国立博物館蔵の

「耶蘇教写経」と題された小冊子に

変体仮名で記録されている

聖母マリアのための連祷、晩課、終課を

16〜18世紀のイベリア系

(スペイン・ポルトガル)楽譜資料を基にして

復元したものを収録しています。

 

連祷は岩手県立不来方高校音楽部、

晩課と終課はカペラ・グレゴリアーナの

女声歌手陣によって歌われています。

(不来方高校音楽部の演奏も女声)

 

これらは本盤が初出かと思いますが

女声による祈祷や歌唱が実に美しい。

 

また、自分が最近になって

クラウディオ・モンテヴェルディの

『聖母マリアの夕べの祈り』を

聴き直していることもあり

興味津々で聴き通しました。

 

 

本盤は「CD&DVD版」とあるように

本来は『洋楽渡来考』(2004)という

学位請求論文に基づく書籍の

視聴覚的な註に相当するもので

別冊解説書にも

「(『洋楽渡来考』×ページ)」と

参照ページが示されています。

 

別冊解説書も大部なものなので

CD&DVD版だけでも

鑑賞するにあたって充分なのは

いうまでもありませんが

何ページというふうに書かれると

やっぱり気になるものでして。

 

ただし書籍版『洋楽渡来考』は

本盤の定価と同じ4ケタ台の価格なので

おいそれと購うわけにもいかず

(在庫があるのかどうかも調べてません)

その内、小金が入った時にでも

と思っておりますけど

いつになりますやら。

 

 

本盤の別冊解説書には

「中世・ルネサンス音楽とともに六十年」

という監修者の半生記が

収録されています。

 

雑誌『歴史と旅』に

2回にわたって掲載されたものと

『バロック音楽』(講談社現代新書?)

からの転載をまとめたもののようですが

これが実に読みごたえがありました。

 

皆川達夫は1927(昭和2)年生まれで

アジア太平洋戦時中は

学徒だったわけですが

そのころの学校の雰囲気や

同調圧力について書かれている他

日本における古楽移入期の

斯界の空気が示されており

興味が尽きません。

 

音楽研究の道を進むにあたり

音楽の研究が何の役に立つのか

と言われたエピソードや

交響楽団の機関誌に

ルネサンス期の合唱について連載した際

長期に亘ったため

何の意味があるのかという

突き上げを喰らったエピソードなどは

現在の新型コロナ禍における

芸術活動への支援を難詰する発言を連想させ

日本人はまったく変わっていないことを

改めて痛感させられたりしました。

 

出陣学徒がバッハのマタイを

涙ながらに合唱しながら

戦場に赴いていったという記述は

ウィレム・メンゲルベルクの指揮する

マタイのアメリカ公演の録音(1939年)に

観客のすすり泣く声が入っている

というエピソードと同じくらいか

それ以上の深い感慨を覚えさせられたり。

 

東大では渡辺一夫の講義を聴いていることや

再留学中には古楽演奏草創期の重鎮

アウグスト・ヴェンツィンガーと

親交を持ったことなどが書かれていて

「へえ」の連打状態。

 

この半生記だけでも

別に本にして(註なども付けて)

江湖に広めてほしいと

強く思った次第です。

 

 

なお『洋楽渡来考』には

本盤以降の研究成果を踏まえたと思しい

『洋楽渡来考 再論』(2014)という

DVDを添付した続編があります。

 

そちらは

『洋楽渡来考』本論に比べれば

廉価とはいえ

やはりそこそこのお値段なので

これまた、いつか小金が入ったら

と思っているのですが……。

 

 

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