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『バッハ・ピアノ・トランスクリプションズ』は

昔、フェルッチョ・ブゾーニの編曲を集めたものを2枚

買ったことがあるだけだと書きましたが

念のため、棚を探してみたら

ブゾーニの2枚に続いて出た3枚目も

買っていたことが判明。

 

すっかり忘れてました。(^^;ゞ

 

『バッハ・ピアノ・トランスクリプションズ』vol.3

(英 hyperion: CDA-67344、2003.5.10)

 

リリース年月日は

タワーレコード・オンラインの

データに拠ります。

 

演奏はオーストラリアのピアニスト

ピアーズ・レイン。

 

vol.9 がイギリスのピアニストでしたし

編曲者の出身に合わせて

演奏者を選んでいる感じですね。

 

 

本盤には

ポーランド出身で

第2次大戦開戦後オーストラリアに移住し

その地で生涯を終えたイグナーツ・フリードマンと

パーシー・オルドリッジ・グレインジャー

およびウィリアム・マードックという

オーストラリア生まれの2人による

バッハのピアノ編曲が収められています。

 

フリードマングレインジャー

日本語版 Wikipedia にも項目がありますが

ウィリアム・マードックは英語版でないと

項目がありませんでした。

 

 

とはいえ自分的は

3人ともよく知らなくて

その演奏も聴いたことはありません。

 

マードックは第2次大戦が終る前に

フリードマンは戦後しばらくして

亡くなっていますから

録音があったとしてもSP盤の時代ですね。

 

グレインジャーは

自分が生まれる直前の

1961年に亡くなってますから

やはり聴く機会はやはりなかったわけで。

 

レコードを通してなら

聴けた可能性もありますけど

自分が物心ついたときは

すでに別のスター・ピアニストが

存在していたと思います。

 

オーストラリアでは

よく知られているのかどうか

あいにくと知りませんが

いずれにせよ珍しい1枚といえそうですね。

 

 

もっとも

以前こちらで紹介した

SP時代の名演奏家/日本洋楽史

 〜来日アーティスト篇』(1999)に

イグナツ・フリードマンの弾く

メンデルスゾーンの無言歌から2曲

収められていますから

長じてから一度、聴いたことがある

ということになりましょうか。

 

ライナーの解説によれば

1933(昭和8)年に

来日しているそうですから

まだオーストラリアに移る前ですね。

 

また、あらえびす(野村胡堂)の

『名曲決定盤』(1939)をひもとくと

3人とも名前が出てきます。

 

グレインジャーとマードックは

フリードマン(同書の表記だと

フリートマン)に比べれば

やや扱いが小さいようですけど。

 

 

前回紹介した第9巻は

オルガンの小曲や

カンタータに基づくものが

多かったわけですけど

本盤は器楽からの編曲が多め。

 

フリードマンが編曲した

ブランデンブルク協奏曲 第3番の第1楽章など

メロディーが耳に馴染みがあり過ぎて

感動ものです。

 

 

フリードマンは他に

ヴァイオリン・パルティータ第1番のプーレー

第3番のロンドー(フリードマンは曲名を

ガヴォットと表記したようですが)

現在は偽作とされている

フルートソナタ第2番のシチリアーノなど

割と器楽曲からの編曲ものが多い。

 

オルガン曲だと

英題が Morning Song という

脱力もののタイトルになっている

〈目覚めよ、と呼ぶ声が聞こえ〉BWV645 や

ブゾーニの編曲で演奏されることが多い

トッカータとフーガ ニ短調 BWV565 も

編曲してるんですけど

トッカータとフーガ ニ短調については

グレインジャーの編曲も収められており

聴き比べて楽しむこともできます。

 

 

実際に聴き比べてみたところ

どちらかといえば

フリードマンの編曲の方が好みですけど

出だしのタララーッというフレーズは

タ、タ、タンッとなっていて

ちょっと間抜けな感じがするのが珠に瑕。

 

トッカータの冒頭に限っては

グレインジャーに軍配が上がる感じですかね。

 

グレインジャーのアレンジは

ブゾーニがそうであったように

オルガンの響きに近づけようとしている

という印象を受けました。

 

 

ちなみにフリードマンとグレインジャーは

カンタータ第208番からのアリア

〈羊は安らかに草をはみ〉も競作しており

こちらも聴き比べることができます。

 

これはチョー有名な曲というか

昔、NHK FM の『朝のバロック』で

テーマ曲に使われていたこともあり

おおっと思っちゃう。

 

自分的には

こちらもやっぱり

トッカータとフーガ ニ短調と同様に

奇をてらっていない感じがする

フリードマン版が好きかな。

 

 

ちなみに、前掲の『名曲決定盤』には

当時、グレインジャー(同書の表記だと

グレーンジャー)が出した

『バッハ作品より、ピアノへの編曲集』

というSP4枚組も紹介されています。

 

リストやブゾーニによる編曲の

アンソロジーのようで

その中にグレインジャーの編曲も

1曲、収録されており

「壮麗でもあり、堂々としてゐる」

と同書で評されてます。

 

その1曲のタイトルは

「歓びの鐘」と書かれていますが

これは上記「羊は安らかに草をはみ」のことで

英題だと Blithe Bells というのでした。

 

 

残りの1人、マードックの編曲は

ヴィヴァルディの協奏曲に基づいて

バッハ自身がオルガン用に編曲した

協奏曲 ニ短調 BWV596 の全4楽章のみ。

 

偶数楽章のフーガやアレグロは

明快なんですけど

奇数楽章のラルゴが

こんな曲だったかしらと

びっくりするくらい

重々しく夢幻的になってます。

 

こういうのを聴くと

バッハのオリジナルや

さらにはヴィヴァルディのオリジナルを

聴き比べてみたくなるなあ。

 

 

いずれにせよ

 vol.9 に比べれば

ポピュラリティーが高い1枚に

仕上がっているので

飽きがきません。

 

あらえびす『名曲決定盤』の

音の脚註的といった性格も持ち合わせており

意外な拾いものだった感じ。

 

なのに買ったことを忘れていた自分って。(^^;

 

 

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