ギリシャから郵便が届いたという
前回の記事の続きです。
届いたのは
日本の Amazon を通して注文した
こちら↓のCDでした。
(英 hyperion: CDA-67767、2010.8.7)
リリース年月日は
どこにも表示されていないので
タワーレコード・オンラインのデータに
拠りました。
演奏はジョナサン・プロウライトという
イギリスのピアニストです。
注文したのは中古ですけど
未開封品だっただけでなく
おまけで絵葉書もついてきました。
ハイペリオン・レコードの
『バッハ・ピアノ・トランスクリプション』
というシリーズは
以前、新宿のタワレコで
ブゾーニの編曲を集めたものを見つけて
2枚ほど買ったことがありますけど
それ以降も続いていたとは、つゆ知らず。
今回は、たまたま
『ハリエット・コーエンのためのバッハ・ブック』
A Bach Book for Harriet Cohen(1932)
という編曲集が
まるまる録音されていることを知って
購入してみたわけです。
ハリエット・コーエンというのは
イギリスのピアニストで
これもたまたま
関内のディスクユニオンで見つけた
アリシア・デ・ラローチャの
『ラローチャ・プレイズ・バッハ』に
(ポリドール POCL-3788、1995.6.1)
コーエンが編曲が録音されていたことから
コーエンって誰だろうと興味を持ち
調べてみたところ
その存在を知った次第です。
検索して見つかったいろいろな記事に
ちょっと目を通してみたところ
なかなか興味深い生涯を送った人のようで
イギリスにこんな女性がいたとは
今回、初めて知った次第です。
日本語版 Wikipedia にも項目がありますが
A Bach Book for Harriet Cohen について
まったく言及されていないのが残念。
ハリエット・コーエンは
イギリスの音楽家たちにおける
ミューズ的な存在だったみたいですね。
本盤のライナーには
カリスマ的と書かれていますけど
そのライナーに拠れば
1931年にコーエンが
付き合いのあった音楽家を招き
バッハ作品の編曲を依頼したところ
12人の音楽家が献辞とともに送ってきたとか。
それをまとめたのが
A Bach Book for Harriet Cohen ですけど
収録曲中、コーエンの恋人だった
アーノルド・バックスの作品のみ
1931年の招待以前に作られた曲だそうで
コーエンはプライベートでそれを献呈されて
編曲集のアイデアを思いついたのではないか
とライナーには書いてあります。
ただ、イギリスのクラシック音楽家って
日本ではほとんど知られていないというか
少なくとも自分は
名前を聞いたことのない人ばかり。
ライナーによれば
かろうじて名前を知っているエルガーは
約束したまま送らなかったそうだし
『惑星』で有名なホルストは
ピアノ編曲は好きではないと言って
その場で断ったそうな。
本盤の中でもっとも知られているのは
やはりイギリスの女性ピアニストで
「主よ、人の望みの喜びよ」の編曲で有名な
マイラ・ヘスくらいではないか知らん。
上記、ヘスの曲は
A Bach Book for Harriet Cohen に
寄せたものではありませんが
このヘスの曲がないと
売れ行きにも影響しそうです。( ̄▽ ̄)
ちなみに
マイラ・ヘスとハリエット・コーエンは
いとこ同士だそうですけど
それを、銭形平次の原作者として有名な
あらえびす野村胡堂が
『名曲決定盤』(1939)で紹介していることを
Wikipedia のコーエンの項目で知り
びっくりしたことでした。
本盤には
A Bach Book for Harriet Cohen に
収録された曲以外にも
やはりイギリスの音楽家による編曲が
ヘスの曲も入れて
8曲、録音されています。
個人的には、なんといっても
レオナルド・ボーウィックによる
小フーガ ト短調 BWV578 が
トップに収録されていて感激。
小フーガのピアノ版なんてあったんですねえ。
あと、他には
グランヴィル・バントック編曲
オルガン・コラール
「目覚めよと呼びわたる物見の声」BWV645 や
ユージン・グーセンス編曲
ブランデンブルク協奏曲 第2番から
第2楽章の「アンダンテ」といったあたりが
比較的、馴染みのある曲なだけに
印象に残りますね。
ハーバート・フライヤー編曲
無伴奏チェロ組曲 第6番の「サラバンド」
というのも録音されてますけど
これはお恥ずかしながら
基の旋律がたどれず
いわれなければ分からなかったです。
その他は
オルガン・プレリュードや
オルガン・コラール、
カンタータに基づく曲などで
あまり聴かないから耳に馴染みがなく
すごさや良さがよく判らないのが
もどかしいところ。
ちなみに
ハリエット・コーエン自身の編曲も
1曲だけ収録されています。
A Bach Book for Harriet Cohen に
収録されたものではなく
ライナーによれば
前年の1931年に編曲したものとのこと。
ところがそれが
本盤を買うきっかけとなった
ラローチャが演奏している曲ではなく
ちょっと残念。
イギリス人はバッハ好きだと
何となく思ってましたけど
バッハのピアノ編曲ものが
こんなにあるだけでなく
一人の女性ピアニストのために
一冊まるごとの
バッハ編曲集まで出していたとは
思いもよらず。
まあ、地味な曲が多いので
一度聴いとけばいいか
という気もしないではありませんが
ブゾーニに代表されるロマン派の編曲とは異なる
大戦間のイギリスの音楽的傾向を示す良い資料
とかライナーに書いてあるを読むと
他のバッハ編曲と
またぞろ比べたくなってくるわけで
その意味では持っていることは無意味ではなく。
というよりも
そんな解説を読んだおかげで
聴いてみたいものが増えてしまい
ますます病膏肓に入っていくという。( ̄▽ ̄)