『さくらんぼの楽譜』

(報知新聞社、1983[昭和58]年7月30日発行)

 

おととしの暮れ

子どもの頃に耳にしていた

「希望」という曲が

岸洋子の歌だと意識して以来

レコードやCDを何度か

当ブログでも取り上げてきました。

 

その際に、Wikipedia を見て

自叙伝を出していることを知り

読みたいと思ったのですが

ネットで検索してみても

なかなか引っ掛からなかったので

これは出会いを待つしかない

と思っていたところ

今年の秋ごろだったと思いますけど

下北沢の古本屋で見つけた次第です。

 

 

日本近代文学館での調べものの帰り

井の頭線・駒場東大前駅から下北沢まで

歩いてみた時に見つけた古本屋なのですが

実をいえばディスクユニオンの

隣の隣くらいの場所にありまして

どうしてそれまで気づかなかったのかと

自分のあまりの迂闊さに

ほとほと呆れたんですけどね。

 

それはともかく

最初にいった時に

目にしていた本を買うため

2度目に行ってみたら

目当ての本はすでになく

岸洋子の本が見つかったのでした。

 

しかも、さほど高い根付けでもなく

まさに出会うべくして出会ったのだと

感銘を受けたくらいです。

 

 

読み始めたのは今月に入ってからですが

ステージやレコーディングの合間に

少しずつ書いていった断章を

積み重ねたような構成

という感じなので

あっという間に読めちゃいました。

 

オビに「随想風自叙伝」とある通りで

系統だった書きっぷりはないし

シャンソンやカンツォーネ

持ち歌に対する貴重な裏話がたっぷり

というわけでもないのですが

背景知識がそれなりにあれば

楽しめる1冊ではないかと思います。

 

 

自分的には

銀巴里のステージに立っていた頃の

同期の歌手の名前の中に

戸川昌子や青江三奈の名前があって

びっくりしたり。

 

あと、来日した

サルトルとボーヴォワールの前で

「枯葉」などを歌い

感銘を与えたというエピソードが

文学好きの琴線にふれたり。

 

 

御主人と別れた経緯など

まるで文学のような感じですが

読んでいて胸傷むエピソードでもありました。

 

膠原病を発症して

病とともに生き、歌うという

人生のあり方にも

感銘を受けた次第です。

 

 

お気に入りのアルバム

『女 女 女/岸洋子の魅力』(1971)の

裏話が語られてないかと

ちょっと期待してたんですけど

残念ながらそれはありませんで。

 

その代わりといっては何ですけど

「夜明けのうた」や「希望」が

複数のアーティストとの競作だったのを

初めて知って、びっくりしたり。

 

 

初版本が出たのは

上にも記した通り1983年。

 

オビ裏に

椎名誠の推薦文が載っているのも

時代を彷彿させるなあ

という感じ。

 

当時、自分は大学3年くらいですが

こういう本が出ていたことを

ちっとも知らず

たとい、目にしていても

興味を持たなかったと思います。

 

当時であれば

古本屋で簡単に手に入れられた1冊

というふうに思うのですが

今ではそれも難しい

というあたりに

何がしかの感慨を抱かずには

いられません。

 

レコードの発売年月日や

コンサートの開演年月日など

いろいろなデータを補足して

どこかで文庫化してくれればいいのに。

 
 
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