アグネス・チャンの歌う
「愛の喜び(Plaisir D'amour)」が
エルヴィス・プレスリーの
「好きにならずにいられない」のメロディーと
酷似していたことから
ドイツ生まれのフランスの作曲家
ジャン・ポール・マルティーニの曲だと分かった
という話の続きです。
原曲はフランス語ですけど
先の記事でも書いた通り
イタリアの音楽学者
アレッサンドロ・パリゾッティが
自分の編纂した『古典イタリア・アリア集』(1914)に
イタリアの楽曲として収めたところから
イタリア語の歌詞でも普及しました。
日本では
パリゾッティの編纂書が
『イタリア歌曲集』という邦題が付き
全音楽譜出版社から刊行され
それが音大などにおける
声楽家志望者のテキストとして
使用されたことで
よく知られるようになったようです。
以前、波多野睦美の
『イタリア歌曲集』というCDを
中古で買ったことがあります。
(OFFICE SONET: MHS-004、2015.8.1)
そのタスキ(オビ)の裏側に
「誰もがピアノで歌い親しんだ
パリゾッティの《イタリア歌曲集》」
と書かれてあるのを見た時も
パリゾッティって誰だろう
と思って検索したことを
今回、思い出しました。
残念ながらこのCDには
「愛の喜び」が
収録されていないのですけど
もし収録されていたら
波多野のCDを聴いた時に
これだっ! と気づいていたはずです。
世の中、ままならないものですね。
それはともかく
マルティーニ「愛の喜び」の
古楽器演奏がないか
探してみたところ
見つかったのが、こちらのCDです。
唐沢まゆこ『アントワネット 〜パリからの絵葉書』
(ユニバーサル ミュージック UCCD-1097、2003.10.22)
販売元はビクターエンタテインメント。
フォルテピアノによる伴奏曲が
4曲収められており
その内の1曲が「愛の喜び」でした。
その他の曲が
モダン ピアノの伴奏による本盤は
近現代フランス歌曲集という
コンピレーション アルバムで
マリー・アントワネットの作曲した歌
(これはフォルテピアノの伴奏)や
シャンソンの定番曲「枯葉」の他
エリック・サティ「ジュ・ト・ヴ」歌曲版
なんかも収められていたりします。
あとイタリア語版として
こちらのCDも聴いてみました。
望月哲也『アマリッリ 〜イタリア古典歌曲集』
(マイスター・ミュージック MM-1214、2006.10.24)
伴奏はモダン ピアノですけど
イタリア語版は
1914年出版の
パリゾッティのアリア集に
収められたものですから
モダン楽器による伴奏が
オーセンティックな演奏になるわけです。
ちなみに上に紹介した
波多野睦美のCDは
パリゾッティの選曲した楽曲を
原典まで遡って
初出の形で歌おうとしたものなので
チャンバロやバロック・チェロなど
古楽器による伴奏となります。
パリゾッティの歌曲集に基づいているのに
わざわざ原典に戻って歌うわけですから
かなり倒錯した企画なんですけどね。
とはいえ、そういうの
嫌いじゃないです、
むしろ好きかも。(^_^)
マルティーニの原曲を聴いてみると
イントロの演奏がまるで違うので
ちょっと戸惑いますけど
アグネスの「愛の喜び」は
原曲のAメロ(?)しか
使われていないことが分かりました。
そしてメロディーは
プレスリーの楽曲よりも
マルティーニの楽曲の方に
近い気がします。
ということは
『イタリア歌曲集』を学んだ人間が
スタッフにいたということなのか。
詳しい事情は分かりませんけど
クラシックに基づくポップスの系譜における
マルティーニの珍しいカバー曲として
記憶に留めるのが妥当なのではないか
と思ったりしています。