『バッハ・古楽・チェロ』

(加藤拓未編・訳、

 アルテスパブリッシング、2016.10.10)

 

副題が「アンナー・ビルスマは語る」

であることから分かる通り

チェンバロやフォルテピアノの奏者

渡邊順生(わたなべ・よしお)が

チェロ奏者アンナー・ビルスマに

ロング・インタビューした内容を

まとめた1冊です。

 

部屋を片づけていたところ

積み上げていた本の中から出てきまして

おやおや、こんな本を買ってたのか

と驚かされた次第。

 

確か、塾の会議の前に寄った

立川のオリオン書房で

買ったのだと思いますけど

買ったこと自体、忘れてまして。f^_^;

 

それから毎晩

ナイトキャップ代わりに読み始めたら

めっぽう面白くて

あっという間に読み終えちゃいました。

 

 

アンナー・ビルスマは

グスタフ・レオンハルトや

フランス・ブリュッヘンなどと共に

バロック・チェロ奏者として

古楽演奏の復興に関わった

レジェンド的な演奏家の一人です。

 

BMGビクターから出ていた

〈オーセンティック・ベスト50〉

というシリーズに含まれている

セオン・レーベルに録音した録音が

何枚か、家にもありまして

バッハの無伴奏チェロ組曲の最初の録音を

そちらで聴いています。

 

こちらのブログでは

ヴィヴァルディのチェロ・ソナタの録音を

紹介したこともありますね。

 

 

バッハの無伴奏チェロ組曲は

『新世紀エヴァンゲリオン』でも

碇シンジが第1番を

弾いていたかと思います。

 

あの演奏は誰のものを使ったのか

知りませんけど

(こちら↓のブログによれば

 http://d.hatena.ne.jp/kotobuki8823/20090313/p1

 柏木広樹ではないかとのこと)

有名なカザルスの演奏盤を

自分も持っているし

何度か聴いていますが

バッハのチェンバロ曲ほどには

ハマりませんでした。

 

それでもやっぱり

ビルスマの話は面白いし

古楽ムーヴメントの頃のエピソードは

興味深いものがありました。

 

レオンハルトの

いけずな性格が垣間見えるのも

ちょっと意外というか愉快というか

面白かったです。

 

 

無伴奏チェロ組曲には

バッハの直筆譜は残っておらず

バッハの二番目の奥さん

アンナ・マクダレーナの筆写譜が

最も古く、オリジナル譜に近いもの

だそうです。

 

ただ、アンナ・マクダレーナの筆写譜には

誤写と思しきものが散見されるらしく

そのために

校訂者が勝手に書き替えたりしている版が

現代の印刷譜として

流通したりしているらしい。

 

そういうあり方に異を唱える

ビルスマの姿勢には

その論理も含めて

説得力が感じられました。

 

 

弦楽器を弾かないこともあって

ボウイングやスラーの話は専門的というか

具体的なイメージが湧かないため

若干、読み辛く思わないでも

なかったのですけど

(特にスラーの違いは

 CDで聴いても、よく判からないσ(^_^;) )

それでもたとえば

ダ・カーポで同じ旋律を弾く場合

バッハは必ず同じようには弾かないようにと

考えていただろうし

それは楽譜にも示されている、というあたり

ミステリの謎ときみたいでワクワクしました。

 

バッハはフランス風ではなく

イタリア風のボウイングを基に

曲を書いていただろうという指摘も

印象に残りました。

 

 

バロック音楽は

「歌う」のではなく「語る」ものだ

という考え方についても

今まで耳にしてはいましたが

なるほどと感心して済まして

何となく分かったような気に

なっていただけでした。

 

同じ音を均一に出すのを

「歌う」といっているようで

それはフランスの宮廷楽団のように

均一な音が求められた場所での

作法(?)なのだとか。

 

そういう(言い方は悪いですけど)

のっぺりとした音を出すのではない奏法を

「語る」といっているようです。

 

これはなるほどという感じで

弁論術云々ということで説明されるよりも

腑に落ちました。

 

訳者によれば

「語る」というより

「しゃべる」というニュアンスに近いそうで

さらに腑に落ちた次第です。

 

 

ビルスマは

無伴奏チェロ組曲を

バロック・チェロで録音した後

今度はモダン楽器で

再録音しています。

 

そちらは、リリースされた当時

買わなかったのですけど

今回の本を読み進めていくうちに

モダンといっても

今はすたれた大型チェロで

1701年製のストラディヴァリ

通称「セルヴェ」だということを

知りました。

 

だったら買っとけばよかったと

思った折も折

春期講習帰りに寄った

横浜のディスクユニオンで

なんと、見つけた次第です。

 

ビルスマ『無伴奏チェロ組曲』(1992年録音版)

(Sony Music Japan International Inc.

 SICC-30104〜5、2012.12.5)

 

こういう感じで

ご縁があるというか

つながり方をするのだなあと

しみじみと思ったり。

 

 

なお、本書には付録で

1999年に行なわれた

佐々木節夫メモリアルコンサートの

ライブ録音が付いています。

 

『バッハ・古楽・チェロ』付録CD

 

本書でインタビュアーを務めた渡邊順生が

フォルテピアノを弾いて共演しています。

 

 

インタビュー本文では

ビルスマのユーモアにあふれた語りに

接することができますし

その上、ライブ音源まで

付いているわけですから

これを買わずにいられりょか。

 

買う際は

本文を立ち読みして

中身を確認することはしてませんが

(目次ぐらいは確認したかも)

まあ、だいたいそういうノリで

買ったんだと思います。

 

読むのはかなり遅れましたが

遅ればせでも読めて良かったし

買っておいた自分を

誉めてやりたくなったのでした。(^_^)v

 

 

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