『アブナー伯父の事件簿』

(菊池光訳、創元推理文庫、1978.1.20)

 

日本オリジナル編集の

創元推理文庫版

アンクル・アブナー作品集です。

 

 

先に紹介した

『アンクル・アブナーの叡知』(1918)は

アンクル・アブナー・シリーズの

作者ポースト生前の唯一の作品集です。

 

そこに収められた18編が

アブナー伯父もののすべてだと

長い間思われていたのですけど

1950年代に入って

『叡知』刊行以降に発表されたため

そちらには未収録の作品が発掘されました。

 

それらがまとめられ

The Methods of Uncle Abner

というタイトルで刊行されたのが

1974年になってからのこと。

 

さらに1977年には

全22編をすべて収めた

The Complete Uncle Abner

という作品集が刊行されています。

 

創元推理文庫版の『事件簿』には

その、50年代に発見された全4編が

すべて収録されています。

 

つまり日本では

ハヤカワ・ミステリ文庫版の『叡知』と

創元推理文庫版の『事件簿』を合わせて

初めてすべてのアンクル・アブナー譚を

読めるわけなのでした。

 

 

創元推理文庫版は

「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」

というシリーズの1冊として出ました。

 

当時、このシリーズは

新刊が出るとすべて買っていて

今とは違い(え?【 ̄▽ ̄】)

買ってからすぐに

読んでいたように思います。

 

ですから今回は

そのとき以来の再読になりますかね。

 

 

新発見の4編は、いずれも

第一短編集が刊行されてから

ほぼ10年後(1927年)に

雑誌に発表されたものです。

 

もしかしたら、第二短編集が

構想されていたのかもしれませんけど

1930年にポーストが急逝して

それは叶いませんでした。

 

 

今回、読み直してみて気づいたのは

『叡知』収録の作品と比べると

時代背景や風俗などに関する記述が

散見されるということ。

 

特に、初出時は2回連載だった

「〈ヒルハウス〉の謎」に

それが顕著で

テンションが、やや

ゆるくなっている感じがします。

 

時代背景が

分かりやすくなっている一方で

ストーリーのスピードを

妨げているというか。

 

『叡知』から10年経って

最初の時よりも

アブナー伯父が活躍した当時の

風俗はもとより、時代精神が

一般読者に共有されにくくなってきた

ということなのかもしれません。

 

 

上記、50年代に発掘された4編の他に

『叡知』から10編

セレクトされています。

 

(採録作品名は

前回の記事に掲げたリストを

参照ください)

 

「ズームドルフ事件」は

江戸川乱歩編『世界短編傑作集2』に

収録されているため

こちらには収められていません。

 

でも

世評の高い傑作は

押さえられていますので

アンクル・アブナー譚の

作品世界を理解するには充分かと。

 

 

この本も、現在

品切れのようです。

 

『叡知』の記事をアップしたあとで

気づいたんですけど

今年は『叡知』が出版されてから

100年目のアニバーサリーでは

ありませんか。

 

ミステリ界隈では

『緋色の研究』が刊行された

1888年を基点とする

シャーロック・ホームズの

130年アニバーサリーが

話題になってるかもしれませんけど

アブナー伯父もお忘れなく。

 

『叡知』ともども

今、この時代だからこそ

再刊を望みたい1冊です。

 
 
ペタしてね