(1970/中村有希訳、創元推理文庫、2017.2.28)
D・M・ディヴァインという
イギリス作家の本邦初訳作品です。
エリス・ピーターズの『雪と毒杯』は
オビに「正統派の英国本格」と
書いてありましたけど
こちらはオビ背に
「正統派“犯人当て”」
と書いてあります。
オビ表の
「フーダニット」というのが
「犯人当て」という意味で
「完璧なフーダニット」といわれると
いやが上にも期待しちゃいますけど
小説世界の印象は真逆というか
日本の社会派推理小説みたいに
地味なお話でした。
スコットランドの小都市の
市議会を舞台に
汚職の証拠を握った
タイピストが殺されて
上司と不倫している副書記官が
謎を解くという話です。
真犯人の正体は意外でしたけど
話も地味なら
犯人を指し示す伏線も
あまりにも些細というか
地味なもので
ちょっとケレン味に乏しい感じ。
ただ、事件の背景というか
主人公の人間関係に
昨今の日本で大はやりの
不倫を持ってきているのが
ちょっと目を惹きますけど。
物語の途中で、主人公は
妻子ある上司との不倫を
告発する手紙を受け取ります。
そのことが
上司の冤罪を晴らす証拠にもなる
という推理は
派手さはありませんけど
ロジックがしっかりしており
手堅くて好感が持てます。
主人公に対する
セクハラなども印象的で
今ではあり得ないような発言や認識が
70年代には
あたりまえだったことを示していて
風俗小説としても興味深い。
当時、女性は
いくら有能であっても
「やっぱり家庭に入って
子どもの世話をしていた方が……」
というふうに言われたものですけど
そういう状況がよく描かれています。
『雪と毒杯』に比べると
華がない気もしますが
アメリカ流の
バリバリ・キャリアウーマンとは違う
主人公の性格や生き方には
好感をもったり共感したりする読者も
多いのではないでしょうか。
それとも現代の風潮に棹さして
主人公に批判的な読者の方が
大半を占めるでしょうか。
真犯人が隠したかった秘密は
70年代当時ならともかく
現代の読者に説得力があるかどうか
微妙なところでしょう。
それとも現代の日本でも
まだまだ通用するかしらん。
あと市議会内での
権力争いや人間関係が
丁寧に描かれていて
読みごたえがありました。
主人公や
他の登場人物が
その人間観察に基づいて
ふと漏らす言葉など
含蓄があっていいですね。
そんなこんなで
本格ミステリとしての
趣向以外のところが
印象に残ったり。(^^ゞ
これまでディヴァインの作品は
『本格ミステリ・ベスト10』とかだと
出れば1位か2位ということが
多かったのですけど
本作品はどこまで支持されるか
興味は尽きない
といったところですね。