『雪と毒杯』

(1960/猪俣美江子訳、創元推理文庫、2017.9.29)

 

オビにもあるとおり

修道士カドフェル・シリーズの作者による

現代を舞台とした本格ものの

本邦初訳作品です。

 

久しぶりに真っ当な

というか

普通に楽しめる

犯人探しの謎解きミステリを

読んだ気がします。

 

 

世界的なオペラ女優の

最期を看取った一行が

ウイーンからの帰国途上

雪嵐に見舞われて

スイス山中に不時着。

 

近くの小村に難を逃れたものの

雪のために外部との交通や

連絡手段が遮断され

二、三日、閉じ込められることに。

 

遺族の強い要望で

オペラ女優の遺言状が

公開されることになり

長年の共演者であるオペラ俳優に

財産のほとんどを遺贈

という内容を聞かされる。

 

そしてその夜

遺言状を書きかけたオペラ俳優が

何者かに毒殺されてしまう。

 

さまざまな証拠が見つかり

女優の伴奏者で

親族でもある青年が

殺害者だと疑われる……

 

 

……というストーリーですが

まず、飛行機が不時着して

チロル山中の小村に閉じ込められ

そこで殺人が起きるという

いわゆるクローズド・サークルの設定に

ちょっとびっくりでした。

 

『オリエント急行の殺人』(1936)と

『シタフォードの謎』(1931)を

足して2で割った感じですけど

60年代のイギリスに

こんな、日本の新本格みたいな作品が

あったのか、と驚いた次第でして。

 

ちょうど挟み込みの広告に

昨年度の鮎川哲也賞を受賞した

『ジェリーフィッシュは凍らない』という、

こちらは飛行船が不時着して

殺人事件が起きる

クローズド・サークルものが

文庫化される広告が載っているのも

面白い偶然ですね。

 

 

遺言状が公開され

自分の取り分を増やすため

と思われる殺人が起きるという

お約束の展開になるわけですけど

容疑者が少ない中

最後まで真犯人を気づかせないだけでなく

真犯人に至る推理が

単純明快なのがすばらしい。

 

真犯人自体は

気づく人も多いかも知れませんが

手がかりを踏まえて

論理的に詰められる人は

少ないのではないでしょうか。

 

なぜこんな単純なことに

気づかなかったのか、という気分

なるほど、と膝を打つ気分を

久しぶりに味わいました。

 

 

原題は The Will and the Deed

直訳すれば「意志と行い」

という意味ですが

意訳すると……

 

……カンのいい人なら

ネタに気づきそうなので

やめておきましょう(;´▽`A``

 

この原題は

オペラ『薔薇の騎士』から

採ったそうで

そっけないタイトルですけど

真相を知ってから見直すと

いろいろなニュアンスが

こめられていて

奥が深い。

 

 

あと

最終章で明かされる

オペラ女優の意思/遺志が

とてもいい。

 

キャラクター造形とプロットが

深く結びついていることに

あらためて気づかされて

やっぱり膝を打つのでした。

 

 

320ページと

長さもちょうどいいし

ケレン味もほどほどあり

キャラクターも

常識的なレベルで

よく描けています。

(ヒロインの、ある振る舞いは

不自然だと思われるかもしれませんが)

 

肩の凝らない

バランスのいい犯人探し小説として

おススメできる出来ばえでした。

 

 

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