松竹版『青銅の魔人』
(コアラブックス発売 SYK-118、2012.3.1)

発売年月日は
Amazon のデータに拠りました。

 
1955年の、
たぶん、お正月映画として
松竹が製作した作品です。
 
第一部「青銅の魔人」(1954.12.29)
第二部「謎の夜光時計」(1955.1.3)
第三部「恐怖の天守閣」(1955.1.9)
完結篇「決闘獅子ヶ島」(1955.1.15)の
全4部で完結。

それぞれが約30分の尺となっています。
 
ちなみに
第一部のタイトル部分のフィルムは
欠けているようですね。
 
例によって
ライナーの類いは封入されておらず
公開年月日も
DVDのジャケ裏に
「公開/1955年」と
あるだけですので
上記の公開データなどは
手許の資料に拠りました。
 
 
以下、内容について
やや詳しくふれています。
 
乱歩の原作についても
ちょっとだけ言及していますので
未見、未読の方は
ご注意ください。
 
 
 

今回のベース・ストーリーは
タイトル通り『青銅の魔人』(1949)ですが
後半では佐賀県に移ったり
獅子ヶ島という
孤島が舞台になったりと
かなり原作をアレンジしています。

もっともアレンジといっても
同じ少年探偵団シリーズの
『大金塊』(1939)や
『怪奇四十面相』(1952)あたりを
ミックスしている感じですけど。

 
今回、二十面相が狙うのは
旧家・水野家に伝わる
「帝王の夜光」という古時計に
隠められていた
ウラン鉱の隠し場所を示す地図です。
 
「帝王の夜光」には
地図の半分しか隠されておらず
残りの半分を求めて
舞台は佐賀県に移るという展開。
 

「帝王の夜光」?
ウラン鉱の地図?

既視感が拭えませんが
それもそのはず
脚本はやっぱり小川正なのです。

同じ小川正が脚本を書いた
東映版の2部作
『二十面相の復讐』(1957)と
『夜光の魔人』(同)は
松竹版『青銅の魔人』の
焼き直しであったと考えて
まず間違いないと思います。
 
旧水野家に使えていた家老が
佐賀県に住んでいて
もう半分の地図の手掛かりを求め
そこを訪ねるというあたりも
東映版の2部作によく似ています。

もっとも、東映版では
ウラン鉱の地図を隠した時計を
「夜光の帝王」と呼んでました(苦笑)

 
今回の映画の
第一部と第四部の後半は
ほぼ原作通りに話が進みます。

ところが第二部で
なんと、透明怪人が参戦し
明智と三つ巴の闘争となる
という、もの凄い展開に
なっていきます。

透明怪人のトリックは
さすがに東映の映画版ほど
ぶっ飛んでおらず
乱歩の原作と同じですが
それでは説明がつかないような状況も
多々見られまして。

だったら東映版のように
無茶した方が良かったかも。( ̄▽ ̄)


原作では
ソフト帽に背広というスタイルで
銀座の街を闊歩する
青銅の魔人ですが
映画では
羽飾りの付いた、つば広の帽子に
マントを翻して闊歩します。
 
どーゆーイメージなんだ(苦笑)
 

また、原作では
まだ復興途上だったので
時計店は夜になると
シャッターを下ろすのではなく
雨戸をたてるだけでしたが
映画ではシャッターを下ろしています。

そのシャッターを
青銅の魔人が怪力で引き裂く
というシーンがあります。
 

さらに
煙のように掻き消えるシーンが
何度も描かれます。

原作にも出てくる
マンホールのトリックは
映画でも出てきますけど
それでは説明し切れない状況が
多々見られるわけです。
 

それより何より凄いのは
映画の青銅の魔人は、なんと!
両手から怪光線を発して
明智を翻弄するのです!

さすがに殺人光線ではなく
電気ショック程度の威力のようですが。
 

最後の最後に
少年探偵団員たちの前で
明智がトリックを説明します。

もちろん
怪光線の謎解きもしてますが
それも含め
かなり無理無理でして
これで当時の視聴者は
納得したんでしょうかねえ。


なお、獅子ヶ島では
鍾乳洞で巨大な蜘蛛が襲いかかる
というシーンも出てきます(!)

ほとんど『ウルトラQ』(1966)の
大ぐもタランチュラですが
作り手側のイメージ的としては
源頼光が退治した妖怪
土蜘蛛なんでしょうかしらん。

この蜘蛛の化け物について
明智は報告を受けておらず
したがって明智の主観では
認識できていないため
謎解きもされないままです。

なぜそんなものに化ける必要があったのか。

やっぱり
二十面相の稚気
というやつでしょうか。( ̄▽ ̄)


そんなこんなで
特撮ものかと見紛わんばかりのシーンが
てんこ盛り。
 
特撮ファン必見(笑)

むしろ
チープな特撮ものとして
最初から開き直って観れば
それなりに楽しめるかもしれません。


前作に引き続き
明智を演じるのは若杉英二
秘書の高安玲子は藤乃高子です。

マンホールのトリックを
二人であばくシーンなどはあっても
ラヴ・シーンまがいの
いちゃいちゃ場面は
ありませんでした(残念w)

獅子ヶ島には
玲子も付いていくのですが
せめてズボンなど
活動しやすい格好になればいいのに
と思わずにはいられなかったり。
 

小林少年を演じる子役は
前作とは別人です。

また、二十面相も
松竹版では2代目となる
諸角啓二郎に交替。

ただし、女秘書サリーは
前回と同じく
草間百合子が演じています。

今回の二十面相の容貌は
東映版・松竹版を通じて
いちばんの悪人づらという印象で
女秘書サリーとのやりとりは
ギャングとその情婦にしか
見えませんでした。


青銅の魔人の助手である
青銅の魔人国の
ピエロを演じているのは
桂小金治だそうです。

こんなピエロ、
原作にいたかなあ
と思って観てましたが
あとで原作を確認したら
ちゃんと出てきました。


さらわれた小林くんや
水野くん(原作では手塚くん)が
青銅の魔人にされてしまう
というシーンも
原作通り。

ただ、原作では全身
魔人にされてしまうのですけど
映画では
青銅の仮面マスクを
かぶせられるだけでした。

原作では
青銅の魔人にされた小林くんが
食事をさせてもらうシーンがあり
さらわれてから
1週間ほど時間が過ぎるのですけど
その間、トイレなんか
どうしてたんだろう
とか思ったり。( ̄▽ ̄)

それを思うと
仮面をかぶせるだけの方が
合理的といえば合理的ですね。


あと、今回、原作を確認して
「これはまた残酷な」と
思わずにはいられない
二十面相のトリックが出てきました。

松竹版『怪人二十面相』
例のトリックに
匹敵する残酷さです。

乱歩の『青銅の魔人』を読むと
当時としては
ことさらに残酷だという意識が
なかったのかもしれません。

というか
意外性のためなら
関係者の心痛など顧みない
乱歩のミステリ魂の凄まじさに
びっくりさせられる
というところでしょうか。

自分も、子どもの頃読んだ時は
さほど残酷だとも
意識しなかったしなあ( ´(ェ)`)


穂積利昌監督の演出は
可もなく不可もなしというか
特撮がチープな分
テンポの悪さが際立ってしまい
損してる感じがします。

当時は大真面目でも
今観れば
巧まざるユーモアになっている
というシーンも
特に目に留まることがなく
(特撮のチープさには笑えますが)
そこはちょっと
残念だったかもしれませんね。
 
 
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