東映が映画化した
『少年探偵団』シリーズを
観終わったので
少し時間を遡って
1950年代半ばに
松竹が映画化したシリーズを
観てみることにしました。

松竹版『怪人二十面相』
(コアラブックス発売 SYK-117、2013.3.1)

発売年月日が
どこにも記されておらず
上記発売年月日は
Amzzon のデータに拠ります。


「日本映画 戦前・戦後 傑作選」
というシリーズの1枚で
『名探偵明智小五郎』か何かの
DVD-BOX を検索をしている時に
引っかかってきて
出ていることを知り
買っておいたものです。

以下、突っ込みどころなど
やや詳しく内容にふれています。

未見の方はご注意ください。



本映画は
第一部「人か魔か?」
第二部「巨人対怪人」
第三部「怪盗粉砕」という
各40分の
全三部構成になっています。

公開は1954(昭和29)年。

ベース・ストーリーはもちろん
『怪人二十面相』で
第一部は、羽柴家の長男が
戦地から帰ってくることになり
それと二十面相の予告が重なる
というふうに
原作に忠実に作られています。

アジア太平洋戦争後の時代背景を
よく原作の設定に
活かしていると思いましたけど
時代の背景に思いを馳せるなら
かなり残酷な計画だという気が
しなくもありません。
 
 
ちなみに
今回、二十面相が狙うのは
超原子炉の設計図です。

またしても
という既視感を覚えますが
それもそのはず
脚本は東映版と同じ
小川正なのでした。


盗みはいいが国を売るな
と明智が二十面相に説くシーンがあり
つい10年ほど前に、国のために
ひどい眼にあったはずなのになあ
と思わずにはいられないのですけど
これが庶民の感覚というものでしょうか。

そこでちょっとシラケてしまうのですが
第二部から俄然、面白くなるというか
ぶっ飛んだ展開を見せていきます。


明智探偵事務所には
少年探偵団の他に
留守を預かる
高安玲子という
女性助手がいます。
 
こういう設定は
映像化作品ではお約束ですが
本映画ではひと味違った
使われ方をしています。

 
第二部で
二十面相の第一のアジトを
壊滅させた明智は
小林君たちを返した後
なんと、玲子と林の中を散策し始め
アメリカ帰りのプレゼントを渡す
というシーンがあります。

そのシーン、
まるで明智と玲子の
ラヴ・シーンのように撮られていて
情感たっぷり。

これにはびっくりでした。


この玲子は第二部の後半で
二十面相にさらわれるのですが
本作品の二十面相には
サリーという名の情婦がいて
玲子をさらう計画を聞いた際
また悪い病気が始まった
といわんばかりに
悪態をつくシーンがあります。

二十面相の女性助手といえば
乱歩の原作にも
登場することがありますが
ここまで情婦然として描かれるのは
ちょっと珍しいですね。

先日、目を通した
保篠龍緒の探偵小説に出てくる
悪漢と情婦の関係に
似たような雰囲気もありまして
乱歩の世界には
合わない気もしますけど
ちょっと変わり種な感じで面白い。
 
 
ちなみに
サリーを演じるのは
もちろん(もちろん?)
日本人です。
 
DVDのジャケット表に
明智役の若杉英二と並んで
表示されている
草間百合子という人。
 
二十面相の情婦役なのに
明智と並ぶ不思議。( ̄▽ ̄)


第二部には
明智の部下が変装した
明智を恨んでいる出獄者が
明智の自宅(?)を訪れて追い返される
というシーンも出てきます。

これなんかも
乱歩らしくない感じですが
乱歩の原作シリーズのどれかに
あったよな、と思って
キャラクター名(赤井寅三)で調べたら
まさに『怪人二十面相』でした。(^^ゞ
 

また原作の第二部は
地方の素封家の美術品を
明智に化けた二十面相が奪う
というエピソードになっていますが
この素封家、映画の方だと
羽柴研究所の研究資料保管所の
管理人に変えられていました。

ここらへんは
わりと原作を忠実に
換骨奪胎してますね。


第二部では
上記、明智の自宅(?)らしきところで
明智がピアノを弾くシーンも出てきます。

太田胃散のCMでお馴染みなので
そちらで検索かけてみたら
ショパンの「24の前奏曲」作品28の
第7番 イ長調だと分かりました。

このシーンでは玲子の他に
小林少年と羽柴少年もいて
玲子が料理をし
小林君の誕生日を祝う
という設定になっていますが
おそらく
アメリカのホーム・ドラマをイメージした
演出ではないでしょうか。

 
原作の第三部は
上野の帝国博物館から美術品を奪う
というエピソードですけど
映画の第三部だと
羽柴博士の友人である
大鳥時計店の店主が
原子炉の設計図を預かっており
それを隠した黄金の塔を
二十面相が狙うという話に変更。

犯行予告した日に向かって
カウントダウンする数字が
いろんな語りで示されるというネタは
『怪人二十面相』で
使われていなかったと思いますけど
乱歩作品ではお馴染みですね。
 
 
映画の第三部では
少年探偵団員が
靴磨きに変装して見張る
という場面も見られて
世相を感じさせますが
明智の紹介で
女中として雇い入れた唖の少女が
ちょっとした働きを見せます。
 
乱歩の原作なら
小林少年の役どころですけど
第二部での
伝書鳩を使った通信といい
小林少年の役回りを
玲子に当てているのが
松竹版の大きな特徴。
 
少年にやらせるのは無理でも
乱歩の趣向を
なるべく活かそうとしているあたりに
脚本の苦心が偲ばれる
といったところでしょうか。
 
 
そうした苦心が偲ばれるだけに
第三部の最後には驚かされました。

少年探偵団員の活躍で
二十面相が捕縛されるという瞬間
なんと明智自らが
「少年探偵団バンザーイ!」
と叫び出します。
 
このシーンには
のけぞってしまいました。

お前が言うかー!
という感じで大爆笑(≧∇≦)


弓削進監督の演出は
これも時代なのか
のんびりゆったりしてますけど
それによって
ところどころ挿入される
ユーモラスなシーンが
(巧まざるユーモアもありましょう)
映画の出来云々を超えて
楽しませてくれました。

これが弓削監督の味なのか
松竹という会社の味なのか
同時代の映画全般の味なのか
それは翌年公開の
『青銅の魔人』(監督:穂積利昌)を観ると
分かるのかも。


なお、本映画では
有名な「少年探偵団のうた」は
使用されておりません。

「うた」の使用が一切ないのが
少年探偵団シリーズの映画としては
珍しいかもしれませんね。
 
 
ペタしてね