『フィリップ・グラス自伝 音楽のない言葉』
(ヤマハミュージックメディア、2016.8.10)

46判ハードカバー
500ページ近い単行本を
一気に読み通したのは
久しぶりです。

巻置くあたわず
といいたいところですが
一気に、といっても
3日ほどかかりましたし
分かりにくいところは
流し読みです。(^^ゞ


フィリップ・グラスにハマっていて
過ぐる6月の来日コンサートも
できれば行きたかった
と思っていたところに出た本なので
ちょっとお値段は張りましたが
これを読まずしてどうする!
という感じで購入しました。

Amazon では
今月10日から販売してたんですが
タワレコのオンラインショップだと
15日からでした。

さっき確認してみたら
honto でも同様に
15日から取り扱いだったようで
だったら honto で買っても
良かったんですけど
(ポイントもつくし)
模試の採点の終了と
今日からの
夏期講習の始まりとを勘案して
読了のタイミングを考えれば
Amazon で買うのが
結果的にはベストだったようです。


一人のアーティストの自伝を
いくらその楽曲が好きとはいえ
読み通すというのは
自分的にはかなり珍しい。

文学者(小説家)なら
読んだりもすることもありますが。

グラスの音楽的背景というか
楽曲が生まれた背景を
知りたかったからなのですけど
例えば『グラス・ワークス』とか
『エチュード』とかが
誕生した背景は
書かれていませんでした。

ミニマリズムという
ムーヴメントについても
とりたてて書いてあるわけではなく
その点がちょっと物足りない。

もっとも
壊れたレコードのように
同じ音型が続くと評されることに対して
ジョン・ケージの音楽理論をふまえた
グラス側の言い分が書かれているのは
興味深かったというか
勉強になりましたけど。


ミニマリズムという
ジャンルというか
ムーヴメントについての記述が少なく
物足りなかったとはいえ
グラスの人生自体は
かなり面白い。

最初のオペラ
『浜辺のアインシュタイン』の頃
タクシーの運転手をしていた
というのは
エピソードとして
知っていましたけど
タクシー・ドライバーだけじゃなく
さまざまな副業についていたことが
分かりました。

まさにDIYといった感じ。

意外に、といったら何ですけど
グラスという人は生活人で
芸術家は一般に思われているより
規則正しい生活をしている
とか書いているくだりなどは
興味深いものでした。


現在から見ると
順調にキャリア・アップしているように
見えますけど
そういうことが可能だった時代なのかなあ
という気もします。

インドに行ったりするあたり
いわゆるビート・ジェネレーションの
典型のような気もするし。

一方でフランスに渡り
ナディア・ブーランジェの許で
厳しい音楽教育を受けて
鍛えられているわけですけど
そのブーランジェが
実はグラスの才能を買っていた
というのは
ちょっと出来過ぎのような気もします。

でも、そういうことも
ありうる時代だったのかなあ、と。

あんまり、
時代、時代、というのも
何ですけど
読んでいると
今とは違う大らかさを
感じさせられるので。


音楽的なエピソード以外で
印象的だったのは
家族とのエピソードでした。

父との関係とか母との関係とか。

新聞に音楽評が載ると
親族がみんな
これを読んだかい、といって
記事を送ってくるというのが
面白かったですね。

褒められていなくても
新聞に取り上げられたというだけで
一人前の音楽家として
認められたことになるのだ
親戚には悪気はないのだ
とか書かれており
そういうもんかねえ
そういうもんだろうね
なんて思ったり。


映画音楽やオペラについては
それぞれ章題になっているくらいですので
そちらの仕事に関心がある人には
興味深く読めるのではないかと思います。

日本未公開の映画『ミシマ』についても
ちょっとだけふれられていて
グラスなりのミシマ観が読めます。

アレン・ギンズバーグとの仕事についても
最終章でやや詳しく書かれていますから
先日の来日コンサートに行かれた方は
やはり興味深く読めるのではないでしょうか。

個人的には
文学者との交流として
サミュエル・ベケットをめぐる記述や
ドリス・レッシングとのエピソードが
興味深いものでした。


それにしても
映画音楽やオペラを含めると
グラスって意外と多作であることに
今更ながら驚かされました。

多作だからダメだとはいいませんけど
それにしてもね、という感じで。

今から後追いして聴く者の身にもなってよ
と言いたくなります(苦笑)


ところどころ、特に後半の方に
しょうもない誤植や
版面の組みのミスが散見されますけど
2015年に出た本を
すぐさま邦訳してくれたことについては
感謝感謝ですね。

監訳者の解説も参考になりますし
人名・事項索引を省略していないのもいい。

「フィリップ・グラスを知る11冊」として
日本語で読める文献が紹介されているのも
ありがたいです。


でもまあ、お値段が張りますし
グラスに関心のある人向けの本であって
誰にでもおすすめというわけには
ちょっといかない感じ。

ビート・ジェネレーションと並走していた
といってもいいような
アメリカのアーティストが属する
コミュニティの雰囲気を知りたい
という人にも
おすすめかもしれません。


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