『魔術師と映画』
(1981/山本浩訳、ありな書房、1987.4.1)

副題は「シネマの誕生物語」。

『戦前日本SF映画創世記』を読んで
去年だったか、本書を
古本で買っておいたのを思い出して
読んでみることにしました。


小学6年生か中学1年生の頃
松田道弘の『奇術のたのしみ』
(筑摩書房、1975)を読んで
その内容の面白さに虜となり
確か、図書館で借りて読んだにも関わらず
手許に欲しくて買ったほどでした。

(同書は、1985年になって
 ちくま文庫に入りましたが
 今では品切れのようです)

その『奇術のたのしみ』にも
マジックと映画に関する記述があり
それを読んでいたおかげもあるんでしょう
さくさくと読み終えることができました。

本文が150ページほどだということも
与っているのかも知れませんが(笑)


初期の映画はマジックの影響を受けていて
幽霊を登場させたり
人体切断術や人体消失術など
魔術・奇術的な演目が撮られたりして
それをマジックを演じる舞台で
上映することがしばしばありましたが
それがかえって
マジックを廃れさせる原因となった
というのは
いわれてみればなるほどという感じです。

特に、脱出術を得意としたフーディーニ
その脱出術を見せる映画に出ていた
というのが面白いところで
特撮を使えば技術は必要なく
イリュージョンとしての魅力を減衰させた
というのは、何とも皮肉なものです。

ただ、ステージ・マジックは
いまだに公演されているわけでして
そこらへんの再興(?)の事情が
本書だけでは分からず
ちょっと隔靴掻痒の感もあり。

まあ、自分で調べろ、と
いわれてしまいそうですが(苦笑)


あと、欧米には黎明期の映画が
比較的残っていることが多い理由として
著作権取得の発想があったから
というのは、
ちょっと虚を突かれたというか
なるほどなあ、という感じでした。

1912年までは
写真に関する著作権法は整備されていても
ロールフィルムとしての映画の著作権法は
まだ整備されていなかったから
ロールフィルムを細長い印画紙にプリントして
(ペイパー・プリントというそうです)
著作権を取得したそうで
現在、当時の映画が観られるのは
その印画紙に焼き付けられたコマを
1枚1枚フィルムに複写することで
再現しているおかげだという説明には
感銘を受けました。

ペイパー・プリントが納入著作権物として
アメリカ合衆国議会図書館に収められており
それが今日まで残っている
というのもすごいけど
それを基に復元しようという熱意があり
技術的に復元が可能だと分かると
国が予算を出すというあたりもすごい。

文化に対する意識の違いを
まざまざと感じさせられます。

マジシャンと映画の関係についての記述も
面白いのですが
日本と比べて
資料が豊富に残っている背景には
上記のような事情あることが
分かっただけでも
本書を読んだ甲斐があったと
いえるかもしれません。


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