$圏外の日乘-ルーマー・ゴッデン『人形の家』
(1947/瀬田貞二訳、岩波少年文庫、
 1978.7.12/1985.10.8., 8刷)

クリスマスだからといって
特別なことがあるわけでもなく(苦笑)
あれってクリスマスの話だったかなあ
と、ふと思いたって
ルーマー・ゴッデンの
『人形の家』The Doll's House を取り出してみたら、
表紙がクリスマスっぽいイラストだったので
再読してみました。

『人形の家』は、ゴッデンが初めて
子ども向けに書いた本ですが、
最初に読んだ時は
子ども向けとは思えない
ハードなストーリーに
びっくりした記憶があります。

さすがにイギリスの作家は
子ども向けだからといって
手を抜かないというか、
大人向けのシリアス・ノヴェルとしても
充分通用する内容なのです。

初めて読んだ時は
いっとき、やたら翻訳された
ルース・レンデルのミステリを
連想したくらいでした。


あるイギリス人の姉妹に愛玩されている
人形たちが主人公の話です。

オランダの木製人形トチーを中心に
お父さんに見立てられた人形プランタガネットさん、
お母さんに見立てられた人形「ことりさん」、
弟に見立てられた人形「りんごちゃん」、
飼い犬に見立てられた人形「かがり」とが
姉妹に大切にされていたのですが、
あるとき、親戚のおばあさんが残した
ドールハウスが姉妹の家に遺贈されます。

そのドールハウスの備品を補修するために
トチーが、盲目の子どもたちのための
ボランティア・イベントに貸し出されることになり、
それをきっかけに、トチーは
自分とは因縁浅からぬ人形である
マーチペーンと再会します。

遺贈されたドールハウスは
もともとトチーとマーチペーンが
住んでいたものだったのです。

ボランティア・イベント会場での
トチーや人形たちの一喜一憂も
なかなか読ませますが、
(あるロウ人形の心情と
 番人の子どもとの関わりは、泣かせますよ)
何といってもすごいのは、
クリスマスの日に
姉妹の家にマーチペーンが送られてきて、
トチーの家族がいる
ドールハウスに住み始めてからの展開です。

マーチペーンは嫉妬と自意識の固まりなので
トチーたちは精神的に追いつめられていきます。

そしてある悲劇が起きるわけですが、
自分はこのお話、
大人向けのミステリと比べても
遜色のない作品だと思ってますので
詳述は避けますけど、
最後にもたらされる悲劇に至るまでの
サスペンスは、すごいです!!


家へのこだわりや、
家の中に他者が紛れ込むサスペンスは
イギリスやアメリカのミステリ、
特にイギリスのミステリでは
定番の展開といってもいいかと思います。

上に書いたレンデルにもありますし
ダフネ・デュ・モーリアの『レベッカ』も
広い意味では
そうしたタイプの作品といえるでしょう。

もちろんレンデルは
ゴッデンより後の作家ですから、
(デュ・モーリアはゴッデンと同世代)
レンデルの方がイギリス作家の伝統を
継いでいるわけです。

そういう、大人向けのミステリの世界を
子ども向けの作品で書いちゃった
『人形の家』は、
岩波少年文庫の指定では
小学中級以上となっていますが、
家や職場を切望するプランタガネットさんの
小市民的心情といったものは
分かりにくいのじゃないかしら。

それを分かる小学中級以上の少年少女が
もしいたら、なんかコワい(苦笑)


先般紹介した宮崎駿の本だと
おススメできなかったのも分かりますが、
岩波少年文庫の中では超おすすめの1冊。

ミステリ・ファンは
必読といってもいいくらいです。

訳はやや古いですが、
サスペンス好きであれば
騙されたと思って
読んでみてくださいな。


最終章はめちゃくちゃ切ないんですが、
これを読んで暗いと思うか、
小市民的幸せというか
ある種の達観した充足感にひたれるかは、
読み手によりますね。

なんかクリスマスから離れた感じがしますが
クリスマスの場面も描かれますし、
ま、そういうことで(どういうことだ【藁 )