リハビリテーション・ミュージアムⅩⅢ
17世紀スペインの宮廷画家として成功したディエゴ・ベラスケスですが、宮廷画家になる前は厨房や食材を描いた作品を多く描いています。
ベラスケス『卵を調理する婆( Old Woman Cooking Eggs)』1618年 1955年以来、スコットランド国立美術館に収蔵
独立後間もないベラスケスは、カラヴァッジョのような明暗対比を強調した作品を制作しています。強い光が左から老婆、調理中の卵や食器類に当たって明るくなっており、逆に光が背後から当たる少年の顔は暗い影を描写しています。
宮廷画家となる前のベラスケスは、ボデコンをよく制作しており本作品の老婆は他の作品のモデルにもなっています。
当時、スペインでは厨房や室内の様子を描く静物画が制作されることが多く、師匠から独立して間もないベラスケスも制作に励んだと思われます。スペイン語で静物画のことをボデゴンと称し、題材として食事や食材が描かれることが多くベラスケスがこのジャンルの発展に寄与したとも言われています。
ディエゴ・ベラスケスは、スペイン南部のセビリアで生まれ11歳頃に有名画家に弟子入りし、6年後の1617年の18歳のときに独立します。1618年には、師匠の娘と結婚しています。
1618年の年記を持つ本作を描いた時、ベラスケスはまだ19歳で前年まで師事していたセビーリャの画家フランシスコ・パチェーコから独立し、一人前の画家として活動を開始したばかりであった。
この面では如才ない青年だったのかもしれません。
本作はパチェーコの無味乾燥な作品とはまったく異なっており、ベラスケスが自身の技量を意図して公けに表明した作品であることは間違いありません。
本作の画面の中心を占めているのは横顔の老女で、火鉢にかけた鍋で卵を調理しているが、卵を油で揚げているのか湯で煮ているのかは判別がつかない。画面の左側にはメロンとワインの入った瓶を持つ少年が立っている。最前景のテーブルには、陶器の皿、金属の乳鉢、ナイフ、ニンニク、玉ねぎ、2つの陶器の水差しが見事な質感で描き分けられて並んでいる
ワインの入った瓶とメロンを抱えた少年は片目を影に潜め、厳格な形相である。画面の中心を占める老女は火鉢にかけた鍋で、卵を調理しているところだ。
描かれているのは、17世紀のスペインで暮らす庶民。暗い厨房に光が灯る、はっきりとした明暗の中に存在する人物の表情、衣服や肌の質感は見事なまでに写実的で、今そこで実際に調理が行われて
いるような錯覚に陥る。彼らが手にするもの、そして前景の卓上に並べられた静物の迫真的な描写。構図は精密に計算され、老女の頭を中心に、少年の頭、メロン、火鉢、卓上の静物は弧の上に配置されている。
なんと、これを描いたのは当時19歳の画家だというのですから
驚きです。