メキシコペソ生活 58 大地震とドル円相場 新春早々に北陸地方で発生した大地震の影が市場での日本売りを加速させています。 2024年最初の取引となった2日も、世界中のニュース番組が羽田空港のライブ映像を流し続けるといった異例の事態となったわけですが、為替市場では、年明け早朝のオセアニア市場で震災を囃したドル円の売り仕掛け失敗を最後に、米長期金利の上昇といった王道を追求する動きに変わっていきました。 米長期金利の上抜けを受けて全般ドル買戻しの展開。ドル円は年末12月29日の高値141.91円を上抜けて一時142.21円まで上昇。その後は株安を受けたクロス円の売りに押されたほか、12月米製造業PMI改定値や11月米建設支出が予想を下回る弱い数字となったことから141.50円まで下押す場面もみられましたが、引けにかけては141.90円を挟んだ高値圏での揉合いに終始したといったところ。 正月3日のアジア市場では、朝方に142.18円まで値を上げたものの、前日高値を前に141.86円まで下押し。その後は142円を挟んだ神経質な動きとなっています。 いずれにしても、2024年が始まって、昨年末に一部で盛り上がっていた日米金融政策の早期転換期待を囃した動きの巻き戻しが出ているわけで、その盛り上がり方が、いかにも安易な単純な、別の言い方をすれば、極めて迎合しやすいテーマを前のめりになって織り込んでしまったがゆえの結果。本日も、米金利動向を占う上で重要な材料が目白押しのNY勢の動きを確認することになりそうです。 一般的に、日本が大震災に襲われた場合、日本の経済の先行きが不確実になるため、日本売り(株売り・債券売り・円売り)が想定されます。 例えば、1923年9月1日に勃発した関東大震災では、ドル円相場は、2.049円前後から翌年24年には2.382円、25年には2.451円まで20%以上の円安となっていた。 しかし、1995年の阪神淡路大震災と2011年の東日本大震災の後は、日本「有事の円売り」ではなく「有事の円買い」となりました。その背景には、日本が世界最大の債権国であること、 日本が相対的に低金利国であることによる円・キャリートレードの手仕舞いの可能性、などが指摘されている。 1995年1月17日に勃発した阪神淡路大震災の後、ドル円は、 4月19日に79.75円の変動相場制導入後の円高値を付けた。 2011年3月11日に勃発した東日本大震災の後、ドル円は、10月31日に75.32円の変動相場制導入後の円高値を付けた。 2024年1月1日の令和6年能登半島地震では、日銀の早期の マイナス金利解除が困難になったのではないかとの見立てから、140.82円から142.21円まで円安に推移している。 日本で大震災が起きた時、復興資金を調達するために、海外に投資していた資金を円に戻す「円買い」が想定される。日本投資家が海外資産を売却して日本国内に資金を還流させることは、 期末決算時も確認され、レパトリエーション(repatriation)と呼ばれて、円高要因となる。 日本の保険会社は、契約者から受け取った保険料の一部を海外の株式や債券で運用している。大震災が起きた場合、各保険会社は契約者に多額の保険金を支払う必要があり、保険会社がこれらの外国資産を売却して円に換えるのではないか、という見方が強まります。 また、日本は恒常的に低金利国なので、米系ヘッジファンド勢は、低金利の円を調達して、高金利通貨で運用する「円・キャリートレード」という投資手法を駆使している。 日本が大震災に襲われた場合は、リスクオフ(リスク回避)として、「円・キャリートレード」を手仕舞って、調達資金である円を返済する「円買い」の為替取引が活発化する。 1998年8月のロシアのデフォルト(債務不履行)、2008年 9月のリーマンショックの後のリスク回避の円買いなどで、確認することができる。 当時の国際金融情勢は、メキシコ通貨危機「テキーラ危機」の渦中であり、米国のクリントン政権は「ドル安政策」を採っており、ドルは下落トレンドの過程にあった。 そして、ドル円は4月19日に79.75円の1973年変動相場制導入後の円高値を付けた。 しかし、1995年1月に就任したルービン米国財務長官が、「強いドルは国益」とする「ドル高政策」に転換し、日米協調 ドル買い介入などにより、ドル高トレンドに転換させている。 2011年3月11日に勃発した東日本大震災の後、ドル円は、10月31日に75.32円の変動相場制導入後の円高値を付けた。 3月17日に、ドル円は、当時史上最安値となる76.25円を記録したが、翌日の18日、先進7カ国(G7)による協調ドル買い・円売り介入が行われ、ドル円は、4月の高値85.53円まで 上昇していった。 その後、8月5日に米格付け機関 スタンダード&プアーズ (S&P)が、アメリカの長期発行体格付けを『AAA』から『AA+』に格下げしたことによる「米国債ショック」が起こりドル円は10月31日に75.32円の変動相場制導入後の円高値を付けた。 正月3日目の昨日も、山手線車両内で複数人が刃物で刺されるといった通り魔的事件が勃発するなど、日本国内は慌ただしいままの休日を終えて、東京市場は本日から新年の取引が始まっていますが、日経平均は震災や羽田空港の衝撃的映像が世界中で流されていたこともあってか、海外勢の売りから急落。一時770円を超える下落となったわけですが、市場では「実際の日本経済に与える影響は軽微」との声も聞こえるなか、次第に下値を切り上げる展開。 ドル円は2日の年始から米長期金利の上昇につれてショートカバーが続くなか、昨日は米10年債利回りが一時4.0083%まで大幅な上昇。目先の短期勢の踏み上げを誘うことになると一気に143.73円まで買い上げられることになりました。その後は米長期金利が大台への達成感からか、低下に転じ143.12円まで下押ししてNY市場を引けています。 そして、投稿市場は早朝こそ株価下落などを受けて142.86円まで値を下げる場面もみられましたが、NY時間の安値142.82円が目先の目処として意識されたほか、連休明けとあり本邦実需の買いが持ち込まれると143.47円まで値を上げているといったところです。 いずれにしても、ドル円は、引き続き早期の日米金融政策変更を囃したポジションの巻き戻しが続いているほかに、新NISAに絡むドル円の買い、要するに、「外物の株式型がほとんどとなる模様」であるなか、米株への投資が主体となるのは明らかなわけで、一部の試算では、恐らく4兆円とも5兆円とも言われているいわゆる実需の買いに目をつぶるわけにいかず、早期の金融政策変更への期待感だけでは、年末の2,3週をもたせるのがやっとだったのかもしれません。 日本経済の構造的な貿易赤字によるドル買い需要とあわせて、こういった国策的なドル買いの潜在的需要は根強く続いている。 やはり、ファンダメンタルズに沿った動きとなるのであれば、今年の方向性としては明らかです。ドル円は、200日移動平均線が位置する143.23円付近を意識した展開となっています。 欧州時間の19時半には143.93円まで進展しています。