【細かすぎて伝わらない】東京五輪81kg級で金メダルを取った永瀬選手は何故強いのか?(2回戦) | 柔道が足りてない!

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昨今、柔道人口の減少が深刻みたいなので、皆様にちょっとでも興味を持って頂けるような柔道ネタなど書いて行ければと存じます。

今回の五輪で、最も熾烈と思われた81kg級を制した永瀬貴規選手、関係各位が絶賛する半面、大野選手や阿部一二三選手のような一目瞭然の強さとは違って、「いつの間にか相手が手詰まりになり、何故か最後には勝っている」というイメージです。

そんな、なんとなく勝ってしまう永瀬選手の強さの秘密を探るべく、今回の五輪の試合を細かくチェックしてみました。

 

今回は初戦となった2回戦。

アルバイラク選手(トルコ)

右組み。力が強く、釣り手で背中を持っての内股が強烈です。
今年の欧州選手権を制している強豪と初戦から激突。

右相四つ(お互いに右組み)の相手、組み手争いは概ね以下の流れで進みました。

1.お互いに引き手(左手)で相手の右前襟を持ち、腕を突っ張って間合いを確保。


 ・相手が釣り手(右手)で襟や袖を掴んでくる場合→2.へ
 ・相手が釣り手で掴んでこない場合→4.へ

2.右手で相手の釣り手の袖を掴まえておいて左手で持ち直し、引き手を確保。


 ・相手もこちらの釣り手を絞ってきて、お互いに袖を絞り合う形になった場合→3.へ
 ・こちらの釣り手が自由に動かせる場合→4.へ

3.釣り手を外からグルっと回し込むようにしたり、下方向に素早く引いたりして相手の引き手を切り、自分の釣り手を自由にする。


 →4.へ

4.釣り手で相手の奥襟を取りに行く。


 ・相手が引き手で右前襟を突っ張って距離を取ってくる場合→5.へ
 ・相手が釣り手で奥襟(または肩越しに背中)を取ってくる場合→6.へ

5.釣り手で相手の左手首を横に薙ぎ払うようにいなして距離を詰め、奥襟を狙いながら小外刈または足車で攻める。



6.引き手で相手の右前襟を突っ張り、頭を上げて、前に潰されないよう凌ぐ。相手は肩越しに背中を持ち続けていると片襟「指導」を貰うし、奥襟であってもガッチリ組み合ったままの形は不利と見て、組み手を切ってくる。


結果、両者「指導」2つで延長戦に突入、組み手で終始後手に回っていたアルバイラク選手が最後は消耗し、3つ目の「指導」が出て反則負けで決着しました。



印象として、組み手の手順自体は特別な事をやっているわけでは無く、比較的オーソドックス。
やはりパッと見、凄さが伝わり辛い試合展開でしたが、試合をチェックして気付いた点もありました。

まず、相手に奥襟や背中を持たれても、前に潰されることなく自分の間合いを確保できていました。

日本人選手が海外の選手と対戦した際の負けパターンとして、相手に奥襟や背中を持たれて引き付けられ、間合いを確保できずに技を喰らったり、前に潰されて「極端な防御姿勢」で「指導」失陥というのが多く見られますが、永瀬選手はここを巧く対処できていました。

これは、映像からはどのように対処しているのか伝わり辛い部分ですが、既に各種メディアでも言及されている通り、永瀬選手のリーチの長さや懐の深さといった特徴が、間合いを確保するために有利に働いているものと考えられます。

そして、奥襟や背中を持たれても永瀬選手は間合いが確保できているため、アルバイラク選手に結局一度も得意の内股を出させませんでした。

一方、アルバイラク選手の試合内容に目を向けると、「パワーを生かして組み勝ち、得意の内股」というのがこの選手の勝ちパターンでしたが、永瀬選手に組み手で完封されて打開策が無く、持ち味を発揮できないままジリ貧で試合が進み、最後は力尽きた印象でした。

 

アルバイラク選手にとっては、奥襟または背中を持ったのに組み勝てず、永瀬選手に間合いをコントロールされていた事が、勝負の分かれ目だったように思います。


というわけで、
永瀬選手は長い腕のリーチを有効に使って間合いを確保し、組み手争いを有利に進めていた
というのが、今回のまとめになります。