【東京五輪】柔道競技の振り返り | 柔道が足りてない!

柔道が足りてない!

昨今、柔道人口の減少が深刻みたいなので、皆様にちょっとでも興味を持って頂けるような柔道ネタなど書いて行ければと存じます。

東京五輪柔道競技の8日間が夢のように過ぎ去り、余韻に浸りつつ今大会を振り返ってみたいと存じます。

 

大会を通じてのテーマは「我慢の柔道」
今大会は特に、「指導」が出されるタイミングが遅く、また選手間での相互研究も進んで手の内を知り尽くされた状態だったためか、延長戦に突入する試合が頻発。我慢比べの様相が強い印象がありました。

背景としてはおそらく、阿部一二三選手と丸山城志郎選手の66kg級日本代表決定戦の影響で、「できるだけ指導ではなく、時間が掛かっても技で白黒付ける」という審判部の方針があったのではないかと想像しますが、66kg級日本代表決定戦は一試合限定だったのに対し、今大会はトーナメント形式!

混合団体も含め、選手の負担は想像を絶するものがあったと思います。

この延長戦頻発の傾向は、「足取り」解禁など思い切ったルール変更をしない限り、今後も続くと思われます。

ちなみに、個人的な思いとして、日本人選手が「指導3」で勝った場合は「我慢の柔道」と評価されるのに対して、外国人選手が同じ事をすると、「勝てば何でも良いJUDOだ」などと批判されるのは残念に感じます。

これはやはり、柔道という競技自体よりも、日本人が活躍するところが見たいという層がまだ多い事が一因と思われますし、そういった状況を少しでも改善できるよう柔道啓蒙に努めていきたいと思いました。


ジョージア旋風が吹き荒れる
66kg級阿部一二三選手の決勝戦の相手マルグヴェラシヴィリ選手
73kg級大野選手の決勝戦の相手シャヴダトゥアシヴィリ選手
90kg級を制したベカウリ選手
100kg超級銀メダルのトゥシシヴィリ選手
など、日本に次ぐ活躍を見せたのがジョージア男子チームでした。

上記以外にも
60kg級で高藤選手を苦しめたチフヴィミアニ選手、81kg級で惜しくもメダルは逃したものの5位に入り、柔道センス抜群のグリガラシヴィリ選手、100kg級で5位だったリパルテリアニ選手は前回リオ90kg級でベイカー茉秋選手の決勝の相手でしたし、全階級でこれだけの顔ぶれが揃っているのは脅威でした。

また、今大会に出場した、
60kg級のムハイゼ選手(フランス)、ムシュヴィドバゼ選手(ロシア)
66kg級のザンタライア選手(ウクライナ)
81kg級のエグティゼ選手(ポルトガル)、アルバイラク選手(トルコ)
90kg級のシェラザディシヴィリ選手(スペイン)
100kg超級のコカウリ選手(アゼルバイジャン)
などが、いずれもジョージア出身の模様。

ついでに、今回ウズベキスタンの監督として来ているイリアディス氏(ギリシャ)もジョージア出身で、世界の男子柔道はジョージアが席巻していると言ってもよさそうです。

残念ながらジョージアの女子チームはまだそれほどレベルが高く無いため、これほどのメンバーを揃えながら今回の混合団体には参加していませんでしたが、今後は女子の強化にも力を入れてくる事でしょう。

(2021/08/16追記)
パラリンピック100kg級ジョージア代表として来日していたズヴィアド・ゴゴチュリ容疑者がホテル警備員を暴行し、逮捕されたというショッキングなニュースが入って参りました。

他のジョージア選手達の活躍に泥を塗るばかりか、柔道の価値をも貶める蛮行だと思います。


審判の判定基準に課題
前述の通り、全体的に「指導」が出されるタイミングが遅く、特に三つ目の「指導」にはかなり慎重な傾向がありました(場外の指導さえもためらう場面がありました)が、審判によっては躊躇無く出したり、審判の判定にバラつきがあった印象でした。

また、寝技から立ち技に移行して投げた場合のポイント判定基準も曖昧。
60kg級チフヴィミアニ選手が高藤選手との対戦で見せた抱分(だきわかれ)などは、正直ノースコアだった理由がよく分かりませんでしたし、柔道経験者や審判講習会受講者が見ても判定の基準が説明できない状況は問題ありと感じました。

さらに、大会が進むにつれ延長戦が多発し、中々投げ技が決まらない傾向が顕著になってくると、腹這いに近い体勢であっても肩口が僅かでも畳についていたら「技あり」を取るケースが多くなってきたのも、判定基準の曖昧さを印象付けました。

そんな中でも、天野審判員は終始毅然とした判定で、見ていて安心感/安定感のあるジャッジだったと思います。


明暗を分けた「膝付き背負投へのカウンター」
寝技から立ち技への移行がルールで認められるようになったのがリオ五輪後の2018年。このルール変更により、それまでは膝付き背負投で掛け潰れた際には、掛け潰れ→寝技→「待て」となるケースが一般的でしたが、掛け潰れ→寝技→引き起こして投げ技という攻防が生じる事となりました。

今大会は、この背負投の掛け潰れからの攻防で明暗を分ける場面が多発しました。

まずは前述の通り、60kg級の高藤選手vsチフヴィミアニ選手、高藤選手の一本背負掛け潰れに対してチフヴィミアニ選手の抱分、結果はノースコア。

81kg級の3位決定戦、グリガラシヴィリ選手の組み際の背負投をカッセ選手が瞬間的に受け切り、電光石火の抱分「一本」。

100kg超級では、バシャエフ選手(ロシア)の背負投掛け潰れに対してリネール選手(フランス)が浮技のように返そうとしましたが、起き上ったバシャエフ選手に押し込まれて隅落を喰らい「技あり」、まさかの敗退。

同じく100kg超級の決勝戦、積極的に攻めるトゥシシヴィリ選手に対して、まさに我慢の柔道でチャンスを狙っていたクルパレク選手(チェコ)、背負投の掛け潰れを隅返でひっくり返し、そのまま抑え込んで合わせ技「一本」。


この膝付き背負投へのカウンター技術に関しては、別途ブログのネタとして取り上げてみたいと考えています。



混合団体の初代王者はフランス
今大会から採用された混合団体。日本は決勝戦まで勝ち進みましたが、フランスに1-4で敗れ、銀メダルでした。

個人の体重別種目で日本人選手が金メダルを量産する中、柔道競技の大トリを飾る混合団体でフランスが金メダルを取った構図は、前回東京五輪にて軽量級、中量級、重量級で日本が金メダルを取る中、最終日の無差別級でヘーシンク氏(オランダ)が金メダルを取った歴史を思い起こさせる結果であったと感じました。

やはり結果は残念でしたが、決勝戦は100kg級のウルフ選手が100kg超級のリネール選手を惜しいところまで追い詰めるなどドキドキする展開が続き、また決勝戦以外でも熱のこもった好勝負が多く見られ、柔道の面白さを堪能できる内容だったと思います。