私の本棚10ー吉田兼好とは誰だったのか | アンクルコアラのブログ

アンクルコアラのブログ

日本酒、ラグビー、美術展、日本古代史、その他ランダムに雑感を綴って行きます。気まぐれなので更新は不定期かも?

前回の投稿「龍馬史」が5月14日だから、約3か月半振りの「私の本棚」である。その間いろいろ読んではいるので、追い追いご披露して行こう。

今回紹介するのは「吉田兼好とは誰だったのか 徒然草の謎」(大野芳著 幻冬舎新書)である。
photo:01


徒然草を知らない人は殆どいないだろう。高校の古文の教科書でお馴染みだし、仁和寺の法師、堀池の僧正、賀茂の比べ馬、二本の矢を射るなかれ等々含蓄の深い文章は、多感な青少年ばかりでなく大人の心を捉える魅力がある。

ところが作者の吉田兼好については、一般的には京都・吉田神社の神官の家柄の出であり、出家してからも貴族達と和歌を捻っていた平安文化人というくらいしか知られていないのではないか。

そもそも徒然草自体、何の目的で書かれ、どのように世に出たのか?何とも謎に満ちた書である。

本書は、そんな徒然草と吉田兼好の謎に迫る労作である。著者は大東亜戦争の裏面史を得意とするノンフィクション作家だそうで、ドキュメンタリータッチの文章には迫力がある。

目次を開くと、如何にもそそる各章のタイトルが並ぶ。いくつか紹介しよう。ー「滅却した筈の原稿」「兼好は横浜生まれ」「失意の帰郷」「ロビイスト兼好」「歌人兼好の登場」・・・

読後の感想だが、かなり満足感が高い。いや、これ程まで眼からウロコの本には最近お目にかかったことがない。

兼好は横浜(金沢)で生まれ育ち、鎌倉幕府で要職に就いた兄のツテで都で出世したとか、若さゆえの不祥事で謹慎中の主人のための教科書として書かれたのが徒然草だったとか。驚くような新説が披露される。

実は本書には種本がある。在野の徒然草研究家、林瑞栄著「兼好発掘」である。林の説は学界では異端とされているそうだが、本書は著者の筆力もあって仲々の説得力がある。少し無理があると感じる推論も無いではないが、堂々たる論旨は高く評価されて然るべきである。

知的好奇心を満足させる書として、また埋もれていた「兼好発掘」を発掘した功績ある書として、歴史・文学を愛好する方にお薦めしたい一冊である。


iPhoneからの投稿