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隅の老人の部屋

映画やドラマの紹介。感想を中心に
思い出や日々の出来事を書き込んでいこうと思います。

中野量太監督作品は「浅田家!」(2019)も良かったのですが、
何と言っても「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016)が大好きです。
オフビートなタッチで物語を綴り、
ブラックユーモアを交えながら感動的な人情ドラマを描く作風が共通していて、
今回の作品も思いきり楽しめました。

原作は読んでいませんが、
Wikiによると私小説的なエッセイの作家で、
翻訳でも活躍している方の作品のようです。

作家として活動している村井理子(柴咲コウ)は突然兄が逝去したとの知らせを受け、
後始末の旅に出ます。
子供のころから周囲の目を気にして自分の好みを表に出せなかった理子は、
マイペースで自由奔放にふるまう兄に嫉妬していて、
いなくなればいいと思ったりしていました。

成人しても兄は母親に寄生する生活を続け、
母親の死後は理子に嘘をついて金の無心ばかりするダメ男だと考え、
理子は兄から送られてきたメールを無視し続けていました。
特に理子には、母親が癌と分かった途端に逃げ出し、母親の葬儀に突然現れて香典の分け前をねだった兄の態度が許せません。

兄はバツ2で2度目の結婚相手・加奈子(満島ひかり)との間には、
満里奈(青山姫乃)と良一(味元耀大)の二人の子供があり、
離婚後は兄が良一を、加奈子が満里奈を引き取っています。

加奈子母娘と合流した理子は家の後片付けや葬儀の手続きに奔走しながら、
自分の知らなかった兄の一面に気づいていきます。

兄が住んでいた家屋は多少老朽化しているとはいえ、
東京では貧窮者が住めない間取りです。
ゴミ屋敷化はしていないけど、とっ散らかった有様が兄の生活感を見事に表現していました。

兄は生活力のない夢想家で、確かにダメ男ではあるけど憎めない性格で、
理子の考えとは裏腹に、付き合った人たちには意外な人気があります。

離婚した加奈子も兄は初めから嘘をつくつもりではない性質と評価していて、
理子は全力で否定しますが、
次第に加奈子の観察が意外と的を得ているのではないかと気づかされていきます。
理子が頭の底に封印していた、兄の良い面の想い出を甦らせていく場面が感動的でした。

理子は金銭的にも余裕のある自分が援助していたら、
兄の死は避けられたのではないか、という後悔の念を抱えています。
理子はたびたび兄の幻覚を視るのですが、
彼女の無意識に罪の感覚を薄めたいという望みが無意識に働いているのではないかと感じました。
その意味では、加奈子との最後の会話も、理子の罪の意識による幻想という気がします。

なんといっても感情表現豊かに歯切れ良い演技を披露する満島ひかりが魅力でした。
柴咲コウも、やや硬めな演技が役柄に見事はまっています。
オダギリジョーの飄々とした個性も生かされていました。

母親譲りの屈託のない性格な満里奈を演じた青山姫乃と、
父の死に悔みを抱えた良一を演じた味元耀大も好演していました。
特に味元耀大は顔も名前も憶えていなかったのですが、
ネットで調べたら「VIVANT」(2023)で堺雅人の子供時代を演じ、
「俺ではない炎上」(2025)にも出演していて、
すでに実績を積んでいるようです。