映画感想 子供のため売人となる「ナイトフラワー」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

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内田英治監督は代表作の「ミッドナイトスワン」(2020)が見逃したままになっていて、
「異動辞令は音楽隊!」(2022)、「サイレントラブ」(2024)、「マッチング」(2024)を見ました。
それぞれ傑作とは言えないまでも優れた部分のある出来栄えでしたが、
その中では今回が最高の作品でした。

永島夏希(北川景子)は二人の子供を持つシングルマザー、掛け持ち働いていますが、
夫が残した借金を抱え困窮した生活を送っています。

もう一人のヒロイン芳井多摩恵(森田望智)は将来有望な格闘家ですが、
所属ジムが経営難なこともありデリヘルで働いています。
多摩恵は出先のラボホテルで、たまたまベッドメイクのパートをしている夏希を見かけました。
さりげないシーンですが、この時多摩恵は夏希に一目惚れしてしまったのではないかと思います。

たまたま少量の薬物を手に入れた夏希は、切羽つまってそれを金に替えようとしますが、
地元の半グレに見つかり殴り倒されてしまいました。
そこに通りかかった多摩恵は、気絶していた夏希を助け、
本格的にヤクの売人になることを提案します。

多摩恵がボディガードするかたちで夏希はヤクを売りさばき、
少しだけ羽振りの良い生活ができるようになりました。
夏希が娘のヴァイオリンを選んでいるときに、
ちょっとでも良いヴァイオリンを買わせようと照れながら金を差し出す多摩恵の姿が
なんともいじらしくてキュートです。

不器用ながらも惚れた相手の役に立とうと尽くす多摩恵は、
往年の名作「無法松の一生」(1943他)を連想させました。

子供の起こしたトラブルの示談金などで、さらに金が必要になった夏希はヤクの取扱量を増やしていきます。
夏希は、多摩恵に家族になってほしいと頼みます。
この時点で夏希は子供のことしか考えておらず、
自分にもしものことがあったときに子供がなんとかなるようにという打算的な考えがあって、
惚れた弱みに付け込んでいるような印象を受けました。

しかし晴れの試合で多摩恵がボコボコにされ血まみれになったとき、
夏希は涙が止まらなくなり、自分も多摩恵を愛していたことに気づきます。
作品中でも特に感動的な場面でした。
こうして4人は家族となり、
多摩恵の幼馴染で彼女に想いを寄せていた池田海(佐久間大介)は、その中に入れなかったことを悟ります。

シリアスなノワールとしては不自然な展開がありますが、
もしかしたら作者は寓話的な物語としてストーリーを紡いだのではないかという気がしました。
半グレのリーダーは、母親という存在には妙に寛大だったりします。
ヤクの売買に直接関わっていなかった海が粛清の対象になるのも不自然に感じました。
命をかけて家族になれなかった者は、結局物語から退場する運命にあったということを象徴しているのかもしれません。

子供が薬物の錠剤で遊んでいて、帰宅した夏希が慌てる場面があります。
幼い子供の手が届くところに薬物を置いていたということも不自然でした。
やっぱりヤクの売人は間違った選択だったという象徴の描写なのでしょうか。

並行して娘が家出しているセレブな母親星崎みゆき(田中麗奈)の姿が描かれます。
年齢的にみゆきが後妻で血のつながらない娘とうまくいっていないのかなと思って見ていましたが、
終盤の行動を見ると、そうでもなさそうでもあって、
良く分かりませんでした。
もう少し詳しい描写があって良かった気がします。
いずれにしても家族を守れなかったみゆきには、
家族となった夏希たちに手出しすることはできませんでした。

夜の闇にしか咲けない花たちが、昼間に開花するまでを描いた、
ちょっとダークなタッチのラブストーリーだと思います。

森田望智は手指とか筋肉とか格闘家っぽくはないのですが、見事に演技力でカバーしていました。
北川景子も情念のこもった演技が光っているし、美貌も際立っています。

二人の子供のうち姉は我慢強くて、時には母親よりしっかりして見えました。
弟はちょっと我がままで、かなりやんちゃです。
姉がプロのヴァイオリニストになって、弟が半グレになっている15年後を描いた続編とか作ったら面白いかもしれません。
子役の渡瀬結美は実際にヴァイオリンが上手いそうで、俳優としても今後の活躍が期待できます。