映画感想 ユートピア?ディストピア?「消滅世界」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

隅の老人の部屋

映画やドラマの紹介。感想を中心に
思い出や日々の出来事を書き込んでいこうと思います。

少子化対策のため人工授精が出生の基本となり、
夫婦間の性行為が禁止された近未来を舞台としたドラマです。
聞いた事のない製作会社のインディーズ作品なので不安も感じながら見たのですが、
なかなかの佳作でした。

恋をしない相手と結婚することが通常となり、
家庭の外に恋人を作るのが常識人とされ、
夫婦の性交渉が近親相姦とされる歪んだ社会となっています。

ヒロインのあまね(蒔田彩珠)は旧来の価値観を持つ母親・雫(霧島れいか)の夫との性行為によって生まれていて、
そのことからいじめを受けて育ちました。
あまねは、それがトラウマとなり母親を否定して、
常識的に生きようと努めています。
結婚相手がセックスしようとしたときには花瓶でぶちのめしました。
もし訴えられても罪に問われるのは夫だけです。

学生時代からの親友・樹里(恒松祐里)は結婚して人工授精の子供もいますが、
本当に好きなのはあまねでした。
家族という概念が否定され始め、
男の妊娠が研究される時代になっても、
同性婚が認められていないというのが日本的と言えば日本的なのかなあと皮肉な描写になっています。

最初の夫と離婚したあまねは、結婚相手とは恋しないという中性的な男性・朔(栁俊太郎)と再婚し、
やがて二人は、家族を否定して子供は施設でまとめて育てるという実験都市「エデン」に
別居して移住しました。
個人という感覚は失われ教育という概念もなくなり、
まとめて育てられる子供たちを大人は面会して可愛がるだけです。
可愛がるだけなんて猫カフェみたい、というあまねのセリフが印象的でした。

子供たちは全ての大人を性別に関係なく「お母さん」と呼び、
走り飛びかかって抱きつきます。
あまねに面会に来ていた樹里はその勢いで階段を落下し、
あまりにもあっけない死を迎えます。
乾いた無感情の葬儀シーンにはぞっとさせられました。

そのショックであまねは流産し、
夫の朔は男性で初めての出産者となり脚光を浴びます。
二人は当初、子供を隠して自分で育てようと考えていましたが、
翔は心変わりして政府に子供を渡しました。

あまねは、夫婦が愛し合って子供を作るべきだと主張する母親を否定して普通に生きようと努めています。
他の人々と同様に感情を表に出さない生き方をしているあまねですが、
内面は母親譲りの情熱を秘めていて実はセックスが好きなようです。
しかし周囲の男性は中性的になり続けて欲求はなかなか叶えられません。

子供を失ったことによりあまねの心は狂気へと堕ちていきます。
はっきりとは描かれませんがラストでは近親相姦が暗示されるダークな結末となっていました。

川村誠監督はMVやライブ映像で活躍していて長編映画は初めてということですが、
低予算ながら意欲を感じさせる作品に仕上げています。

演技者も感情をあまり表に出さずに心の動きを表現していて感心させられました。
エデンの管理人を演じた眞島秀和の善良だけど無機質なキャラクターも印象的でした。

今回フォトセッションの時間が設けられなかったので画像はありませんが、
劇場挨拶付きで鑑賞しました。
全編ロケ撮影ということでロケ地選択は大変だったと思います。
メインとなるロケ地は監督がかねてから撮影地にしたいと考えていた施設だということでした。
後半のエデンは建物も服装も白で統一されていて、
あまねの母親だけが赤い服を着てるのがインパクトを感じさせました。
表現が難しくて演技者も戸惑ったことがあるようです。

内容は異なりますが独特な未来感は、
「ガタカ」(1997)や「赤ちゃんよ永遠に」(1972)のディストピアを連想させました。
ちなみに「赤ちゃんよ永遠に」のラストは一般的にバッドエンドとされていますが、
個人的には放射能汚染が管理社会を維持するため過大に喧伝されていて、
実際には草木も育つ大丈夫な状況だったという皮肉だと勝手に解釈してハッピーエンドと捉えています。