映画感想 フランス映画リメイク「TOKYOタクシー」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

隅の老人の部屋

映画やドラマの紹介。感想を中心に
思い出や日々の出来事を書き込んでいこうと思います。

フランス映画の秀作「パリタクシー」(2022)のリメイクで、
オリジナルほどエスプリに溢れてはいませんが
こちらも山田洋次監督作らしい人情ドラマとしてのアレンジがなされた佳作に仕上がっていました。

オリジナルと一番違う点は主人公であるタクシードライバーのイメージです。
オリジナルでは金銭的にも私生活でも追いつめられていて、
そのうえ免停ギリギリの状態でまさしく崖っぷちのタクシー運転手でした。
本作では家庭での描写が織り込まれホームドラマの要素が付け加えられています。

木村拓哉が演じる主人公も、良い家庭を持つ良き父親で、
娘の進学費用に困ってはいますが追いつめられたというほどではありません。
進学費用も思い出のある実家を売る決意をすれば工面できるという状態です。
個人的には、たとえ思い出があっても買い手があるなら売ったほうが、空き家のままでおかれるより治安面でも防災面でも有益だと思っています。
実際には買い手がないから放置されるというのが実態のようですが。

もう一人の主人公である老婆も92歳から85歳と少し若返った設定になっていました。

大筋はオリジナルと同じで、
介護施設に入居することになった老婆を乗せたタクシー運転手が、
彼女の想い出の場所を巡りながら数奇な身の上話を聞いて引き込まれていきます。

タクシー車内という密室での会話劇が山田監督らしい巧みさで繰り広げられ、
その合間には東京の風景や老婆の回想が織り込まれて絵的にも変化が加えられて、
良い原作を選んだなあと感心しました。

何と言っても倍賞千恵子の演技の上手さが光っています。
ヒロインの若き日を演じた蒼井優の相変わらずの魅力で、
山田作品には珍しい激情的なヴァイオレンス・キャラを快演していました。
ただ劇的過ぎる展開を嫌ったのか、
オリジナルでは戦場カメラマンとなった息子がヴェトナム戦争の取材中に死亡しているのが、
本作では交通事故としてさらりと流されています。

ラストは基本的には同じ展開で、
運転手の家庭描写あるので予想が付きやすくなっていましたが、
彼が後悔する部分もあって奥行きを感じさせます。
フランスは知りませんが、日本では故人の口座は相続手続きが完了するまで凍結されるので安心できませんけど。