映画感想 タイ製コメディ「サッパルー!街を騒がす幽霊が元カノだった件」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

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どう見ても低予算のB級コメディですが、
タイ本国ではその年のトップとなる大ヒットを記録して、
すでに続編も撮影を終えているようです。

サッパルーとは葬儀屋のことで英題は「THE UNDERTAKER」、映画祭上映時の邦題も「葬儀屋」だったそうです。
ということでメインとなるのは病に倒れた葬儀屋の父ザックに代わって慣れない葬式をすることになった青年ジュートのドタバタ劇でした。
ホラー要素はあまりないので、予告編を見て期待すると裏切られた気分になると思います。

キャッチコピーは「異色のマルチバース・ラブ・ホラー」ですが、
霊界的なものを受け狙いでマルチバースと呼んでいるだけで多重次元世界は登場しません。
ダメ男のシアンは死んだ女性に会うために幽体離脱して霊界に行こうとします。
幽体離脱と霊界は関係ないように思いますが、
タイでは何か違った言い伝えがあるのかもしれません。
ついでに言えば舞台となるのも街という印象はなく集落に毛が生えた程度の規模の地域です。

弁護士になろうとしているジュートは卒業が決まり、司法試験への準備期間に帰省しました。
ジュートはいい年をして夜が怖いと義兄のベッドにもぐりこみ、明かりを消すことも怖がる臆病な性格です。
この義兄は医者というわりに品がなく口も悪い怠け者なので医者には見えないと思ったら、
後半でどうやら医者なのは奥さんの方らしいと分かりました。
結婚していて義弟と一緒に寝ているのはなんとも奇妙です。
この義兄を含めて村に住む若者の大半が定職に就かずブラブラ暮らしているように見えます。
出家した者でさえ修行などしているようには見えません。

一方、妊娠していたバイカーオが首を吊って死に、幽霊となってあちこちに出没します。
悪い男に引っ掛かったというようなセリフもありますが細かくは描かれません。
バイカーオの幽霊も復讐とかではなく、ただ彷徨っているだけのようで、
バイクの後ろに横座りしていたり、おじさんに肩車されていたり、
お茶目な面もあります。

バイカーオの幽霊は自称元カレのシアンのところには現れません。
シアンは何とかバイカーオの幽霊に会おうとしますが果たせず、
最後に思いついたのが幽体離脱でした。
これもはっきりとは描かれませんが、
シアンはバイカーオにふられて出家したものの、彼女の死を知って未練が蘇り還俗したというのが実態のようです。
とにかくシアンは幽体離脱を学ぶためにザックを訪ね、いやいやながらジュートの助手となりました。

こうして葬儀の手順も知らないジュートとシアンが四苦八苦しながら葬式を仕切っていく姿が描かれます。
宗教心の厚いタイの観客には葬儀における古い習慣の描写などが心に刺さるのかもしれません。
タイの地方では警察関係者が弔辞を述べる習慣があることを初めて知りました。
極悪人と言われる男の葬儀で警察関係者がほめたたえて、村人に陰口をたたかれる場面もあります。

また一旦遺体を土葬して後日改めて火葬するという風習になっていて、
これが一般的なことなのかどうかは分かりません。
ザックは他の葬儀は若い二人に任せっきりにしているのに、
なぜかバイカーオの火葬だけは自分の病気が治るまでできないと延期し続けます。
これがバイカーオが成仏できない理由と感じられました。

その場のノリでドラマを進行させているようなところがあって、
全体的な流れはちぐはぐに感じられる部分が多くあります。
ギャグのレベルを含めて昭和のころの香港コメディを見ているような気分になりました。

いい年をして酔って葬式で暴れた上に年老いた祖母に慰められるシアンを代表に、
登場する若者はなんだかダメジン感にあふれています。
憎めないところはありますが、やや魅力に欠けた作品に感じられました。
上映時間が125分とこの手のコメディとしては長めで、
ちょっとグダグダしてしまった部分もあります。