映画感想 SNS時代のサスペンス・ミステリー「俺ではない炎上」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

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松竹によるメジャー作品としてはこじんまりとした小品ですが、
キャスティングは充実していてなかなかの拾い物でした。

主人公の山縣泰介(阿部寛)はちょっと古いタイプの人間で、
仕事はバリバリやりますが、
かなり押しつけがましいところがあるということが冒頭から描かれます。

SNSに殺人現場写真が拡散され、
泰介が犯人と断定する情報が流れ始めます。
最初は名前が偶然一致したためだけかと思って見ていましたが、
泰介の自宅にある倉庫から人間の腕が見つかって、
犯人捜しのミステリー映画であることがわかりました。
偽アカウントと思えた泰介のSNSがすべて彼の自宅から発信されていることが判明して謎は深まっていきます。

パニック状態に陥った泰介は正常の判断力を失ってドツボにはまっていきます。
人間の腕を見つけたら普通は警察に通報するところを、
いきなり逃亡してしまいました。
俺が犯人を見つけてやる、と意気込んでも行動は空回り、
かなり寒い冬が舞台のようですが、
モデルハウスに忍び込むのにパンイチになって服をロープがわりに崖を降りようとします。

泰介は自分が仕事ができて人望のある会社の人気者と思い込んでいたら、
独りよがりで上から目線の嫌われ者と扱われていたことを知って、
ものすごく落ち込みます。
決して悪人ではないけど周囲のことを気遣うことのできない人の不幸を、
ブラックユーモアタッチで描いて秀悦でした。

もう一つのテーマは責任を他に押しつけて反省をすることのない人たちへの警鐘です。
ネット内だけでなく警察にもそのタイプの人物が描写され、
インフルエンサーのみならず各地の市長が同様な行動を繰り返している現状には、
タイムリーな内容と感じさせました。

時系列を巧みに操った展開も成功しています。
犯人が事件の展開を読めすぎるという印象はありますが、
まあこれは多くのサスペンス映画が感じさせることで、
フィクションのお約束と割り切ったほうが良いのでしょう。
泰介がスナックで一晩過ごしてママの息子が通報したという描写があります。
細かい部分ですが、展開的には朝に帰ってきた息子にそれまでいた客が泰介と判断することは不可能と思えました。

芦田愛菜が被害者の友人と称して事件を追う謎の女を演じていて、やっぱりうまいなあと感心させます。
かってはアニメ「ベルサイユのばら」(1979~)でオスカルの声を演じていた田島令子がおばあさん役で、
時代の流れを感じました。

ラストはきれいにまとめて後味が良いのも魅力です。
自分が悪かったと家族で言い合う、ちょっとベタな描写が微笑ましく感じられました。