映画感想 実話をもとに描く「木の上の軍隊」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

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舞台となるのは終戦間際の沖縄県伊江島、
現地では飛行場建設のため土地をならして滑走路を造成中です。
徴用された地元の人たちは労働や訓練を強いられていますが、
それでも序盤は穏やかな日常が描かれていました。

すでに東京大空襲が敢行された後の時期で、
飛行場建設がなければ米軍がこれほど激しく攻撃することもなかったように思えます。

主人公の一人、上官こと山下一雄(堤真一)は地元民に暴力をふるうこともありますが、
権力志向の人間ではなく、本気で米軍を迎え撃って本土を守ろうとしているように見えます。
一種の洗脳状態にあると言えるかもしれません。
もう一人の主人公、新兵こと安慶名(あげな)セイジュン(山田裕貴)は地元の出身です。
故郷の近くにいることや戦闘経験がないこともあって、それほどの緊張感を持ってはいません。

ついに米軍が上陸すると状況は一変します。
物量で押す米軍に貧弱な装備の日本軍は一方的に敗退し、
地元住民も含めてあっけなく犠牲となってしまいました。
Wikiによると、この戦闘の犠牲者は一般住民約1,500人を含む4,700人以上とのことです。
今でもこれと同様の行為が世界のあちこちで、はるかに殺傷力を増した兵器を使って行われていると思うと悲しくなります。

生き延びた二人は枝が絡み合ったガジュマルの樹上に隠れ、
援軍の到着を待ちながら暮らします。
現地の自然に詳しい安慶名がいたことが幸いしました。
山下一人だったら、はなからサテツの毒で死んでいた可能性があります。

米軍の缶詰が見つかっても頑固な愛国者である山下は決して口にせず衰弱していきます。
見かねた安慶名は日本の空き缶に中身を移し、新たに見つけたと嘘をついて食べさせました。
やがてそのことに気づいた山下は腹を立て眠っている安慶名に銃口を向けます。
思想教育の恐ろしさを感じさせる場面でした。
そのとき遠くで銃声が聞こえ山下は様子を見に行きます。
そこで山下が見たのは、戦闘などではなく、銃を宙に発砲しながら飲み食いして騒ぐ米兵たちの姿でした。
この場面は山下の思考が切り替わる重要なものなので、底抜けな陽気さで浮かれ騒ぐ米兵たちのどんちゃん騒ぎぶりがもっと強調された方が良かった気がします。

翌朝、姿の見えない山下を探す安慶名は、ゴミ捨て場で米兵の残飯にむしゃぶりつく山下を見つけました。
本人は認めませんが、米兵の様子から頭のどこかで日本の敗戦を感じ取ったのではないでしょうか。

二人は残飯をあさって暮らすようになり、銃を携行していることを除けば、普通の路上生活者と変わらなく見えてきました。
ゴミの中からちょっと貴重品ぽいものを見つけた二人は、バットで打ったり壊したりして憂さを晴らします。
絵面としては楽しげなのですが、そこはかとない虚しさも感じさせる印象的な場面でした。

本土に残した家族に想いを馳せながらも軍人としての意地を貫こうとする山下。
住んでいた場所の近くにいながら戻ることが出来ず望郷の念をつのらす安慶名。
堤真一と山田裕貴の演技が胸を打ちます。
安慶名の友人を演じた津波竜斗も良い味を出していました。

なかなかの良作なのですが、後半やや冗長に感じさせるのは少し残念でした。
残飯をあさり始めるあたりから、もう少し短くまとめてメリハリをつけた方が良かった気がします。

 

 

Wikiによれば、この作品は井上ひさしが構想約25年で未完成に終わった戯曲を、没後に完成させた舞台劇がもとになっているそうです。
監督の平一紘は沖縄出身で、桐谷健太が主演した「    ミラクルシティコザ」(2022)は沖縄で3か月を超えるロングランを記録したそうです。