アニメ感想 「タコピーの原罪」(ネタバレあり) | 隅の老人の部屋

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原作は3年ほど前に読みました。
闇の中を彷徨い続けるように生きる子供たち、
善意の塊だけど人の心は理解でない宇宙人タコピー、
ダークな感覚に満ちたSFファンタジーで衝撃的な作品でした。

今回のアニメ版ではストーリー上の変更は加えられていませんが、
行間というかコマ間をうめる丁寧な作業が行われています。

 

 

2016年、小学4年生の久世しずかは
宇宙にハッピーを広めるため旅をしているハッピー星人のタコピーと出会います。
タコピーはなんとも可愛らしいデザインですが、しずかは学校でいじめを受けていて、
笑顔を見せるのは心のよりどころである犬のチャッピーに接する時だけです。

 

 

いじめる側の雲母坂(きららざか)まりなも
父親が水商売をしているしずかの母親に走り家庭をかえりみなくなっていて、
荒んだ家庭で孤独な生活を送っているという哀しい境遇です。
その怒りをしずかにぶつけているとはいえ、
ちょっとやりすぎな気もします。
この作品には次元も時間も超越した記憶というテーマがあるようなので、
後半で描かれる2022年のパラレルワールドにおけるまりなの記憶が深層心理のどこかにあるのかもしれません。

 

 

後にしずかと共犯関係となる東直樹も優等生ながら、
母親からは常に百点を取る天才肌の兄・潤也と比べられて悪く言われ続け、
大きなトラウマを抱えています。

 

 

この作品の恐ろしさの一点は、
タコピー星のハッピーママを含めて親の存在が
子供たちにとって全くプラスになっていないということです。
子供たちはみな親の愛情に飢えているというのに。

 

 

チャッピーを失ったしずかの死とタイムリープによる死の回避。
と思ったらつぎにはまりなの死による被害者と加害者の逆転と、
前半だけでも怒涛の展開ですが、
アニメ版では原作では一言で終わっているセリフを会話としてふくらませたり、
小さな一こまを印象的な情景に起こしたりしていて、
製作者の細かい苦心が伝わってきます。

特に後半では原作にない印象的なカットが見られます。
例えば直樹が潤也にののしられる幻覚に襲われたときに瞳の中に不気味な人影が踊る演出とか、
2016年のしずかとタコピーが最後の日々の中でパンを買って食べるシーンの追加などが印象に残りました。

 

 

終盤ではタコピーが初めて地球を訪れたのは2022年のパラレルワールドで、
出会った相手がまりなだったことが明かされます。
そこではチャッピーはいないようですが3人はみんな高校生になっています。
まりなの家庭は崩壊していて父親の姿はなく、母親は重度のアル中で危険な状態に陥っていて、
まりなの頬には母親につけられた傷があります。

 

 

この時代における最後の日に起こった悲劇は、
原作ではかなり省略して描かれていますが、
アニメでは詳しく描写されていて分かりやすくなっていました。

 

 

ラストに描かれるのはさらなるパラレルワールドですが、
ここでは次元も時間も超越した記憶のかけらがささやかな奇跡を生みます。
それまでがつらい展開の連続だったので、このラストにはほっとさせられて感動しました。
最終ページのまりなの頬に傷があることを、
原作を読んだときには見落としていたのですが、
アニメ版で気づくことができました。

欝な描写の多い作品ですが、
ためしに話し合ってみたら、ぶつかってみたら道は開けるかもしれないという、
前向きなメッセージも感じさせる作品に仕上がっています。

アニメ版ではしずかが、自分の時間稼ぎのため直樹に自首させようとする場面や、
2022年の場面などで母親ゆずりの魔性を感じさせるのも印象に残りました。