今回ストーリーがラストまで書かれていますので、未見の方はご注意ください。
館内は空席が目立つ状態でした、
インディーズ作品であまり宣伝もしていないので仕方ありませんが、
「オダギリジョーはオワコンか」とか
「テレビ小説「ばけばけ」が不安視される」とか
くだらないコタツ記事が書かれるかもしれないと思うと嫌な気分になります。
どうせ書くなら製作費が集まらない場合を心配したオダギリジョーが製作にも携わったという心意気について書いてほしいものです。
作品の出来自体はしっかりした作りの佳作で、
インディーズ作品としてはキャストも充実して見ごたえがありました。
長崎の港町が舞台で、
かっては造船所を中心に活気があったと思われますが、
その倒産・閉鎖とともにすっかりさびれてしまっています。
オダギリジョー演じる主人公は、
どのような順番に起きたかは分かりませんが、
造船所の仕事を失い、
目を離したすきに幼い息子を事故で亡くし、
妻(松たか子)が元同僚(森山直太朗)とダブル不倫で別居状態と
すさんだ生活を送っています。
町一番の職場で働いていたというプライドからか職探しも怠っています。
そこに明らかに男を見る目がない妹(満島ひかり)が姪(髙石あかり)を置いて行ってしまいます。
髙石あかりの、母親をあきらめてしまったかのような虚ろな表情がとても哀しく感じられました。
この姪はアルバイト先で遅刻の多さを指摘されるなどルーズなところがあるのかもしれません。
人づきあいも苦手なようですが、日常の受け答えはきちんとしています。
これは他の登場人物たちも同様で、
何事もなければ平穏な生活を送っていたはずの普通の人たちです。
なんだか中流家庭が破壊され、勝ち組負け組に分断されてしまった日本を象徴して描いているのではないかという気分になってきました。
真夏で日照りによる渇水が続き、
水道は断水スーパーの水ペットボトルは購入個数制限がかかり給水車が出動という
実生活面でもヒリヒリした状況に追い込まれています。
二人での暮らしになった主人公は、
弁当中心の生活をやめ料理するようになり職にも就きますが先は見えてきません。
一方、姪はバイト先の同僚の大学生(高橋文哉)に告白され、
流されるように付き合い始めますが特別な感情を持つことができません。
主人公もまた身に降りかかる出来事に抗えない、どちらかというと流されるタイプです。
そんな主人公を単純に否定したりはしない監督の描き方が作品に奥行きを与えています。
あまりに閉塞的な状態に姪は主人公に二人で他の土地に行って暮らそうと提案しますが、
主人公は土地を離れることができずに終わります。
結局、主人公は周囲の人たちみんなに去られ、
職場で大怪我を負い、
それでもこの土地で一人淡々と生きてくことになります。
新天地に旅立った人たちも、
幸せになれるという気がしません。
閉塞感に満ちたドラマの中で束の間の解放感が描かれる雨の場面がとても印象的でした。
この作品を見て生田斗真が主演した「渇水」(2022)を思い出しました。
やはり渇水状態の夏を舞台に心を閉ざした主人公は、
料金滞納の家庭を訪れて水道栓を淡々と閉鎖する水道局員です。
ところがある日訪ねた家庭に、母親が男に走って見捨てられた幼い姉妹だけが暮らしていたことから心が動き始めます。
この作品も束の間の解放感が描かれる放水シーンが印象的でした。