呆然としながらその人は風を待っていた。
同じ状況は長くは続かない事を、その人は経験から知っていた。
ただ、風向きが変わるのをミノムシのようにジっと待っていた。
一日に何十錠もの薬を食べながら。
一日にひと箱の煙草を燃やしながら。
行き交う人々に舌打ちをしつつ、全ての世界を見下しながら。
あぁ、俺は一体何を待っているんだろう。
どの風向きが変われば俺はたった一人の君に出逢えるんだろう。
もはや、愛を試す季節じゃない。
もはや、誰かを探す術もない。
愛を交換するには遅すぎた。
その人は、沢山の海をあきらめてきた。
ささやかな夢も、小さな愛も、そして大きな傷も。
愛してるぜ、世界よ。
さよならだ。
さぁ、風向きが変わった。
煙草に火を点けよう。
そして紫煙の向く方向へ、歩いて行こう。
風の向くまま、煙の行くまま。
見ろよ、街の灯を。
まるでゲームの画面のように浮いている。
もう俺は、現実の世界にはいないのかもしれないね。
一日に何歩、歩いたのかを常にチェックするような人生なら捨ててしまえ。
生きるために生きているんじゃないよ、俺は。
その人は歩き始めた。
風と共に。
その先に待っているものは………あれは…。
『風に吹かれて』エレファントカシマシ