トヨタ燃料電池車MIRAIの奇怪!「水素社会」の虚妄 | Old James Bond 通信

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―― 大学教授・宇賀神大介の熱血講義録!――

 先の、中国が主導するアジアインフラ投資銀行設立計画に関する

記事について、一言 補足しておきたい。


 とにかく現在の中国は、政治、経済、社会のどれを取っても、実に

多くの難題を 抱えていて、災いの詰まった「パンドラの箱」 さながら

である。だから、一旦 何かに火が付くと 次々に引火して、大炎上を

引き起こし かねない。そういった国が、国際金融機関の設立などを

主導すべきではない。誠に失礼ながら、少しは まともで立派な国に

なってから 行って頂きたい。いち早く上記の計画に参加を表明した

イギリスは イギリスが動けばアメリカが動き、またアメリカが動けば

日本も動くと読んだのであろうが、そうは問屋が卸さない。


 ところで、トヨタの燃料電池車MIRAI‥‥、





写真 : トヨタ燃料電池車MIRAI



 トヨタ自動車が燃料電池車MIRAIを発売して以来、世の中は急に

「水素社会」だの「水素都市」だのと騒がしくなった。これはいかにも、

経済産業省 辺りが考えそうな話である。同省が まだ通商産業省と

称した時代に 何かとお世話になったので 気が引けるのだが、経済

(通商)産業省の お役人たちを 見ていると、「○○計画」とか 「△△

プロジェクト」とかいうものを でっち上げては、生き延びているような

ところがある。「水素社会」とか「水素都市」とかも、およそ その類の

話ではないだろうか。日本経済を 浮揚させるには、これまで 行った

日本銀行による国債の買い取り(買いオペ)のような 金融政策だけ

では限界があり、適切な産業政策、すなわち安倍首相のいう「成長

戦略」が 必要となる。安倍政権としては、この燃料電池車の普及を

「成長戦略」の一環 と 位置付けているように 見受けられる。しかし、

安倍首相も軽々に経済産業省の口車に乗るべきはでない。


 さて、この 燃料電池車(FCV)、アメリカの電気自動車メーカー で

あるテスラモーターズ最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏で

はないが、「馬鹿げて」いる と思う。燃料電池車とは、簡単にいえば、

水素(H2)を燃料に使い発電し、その電力で 電気モーターを回して

走るクルマのことである。水素原子(H)は、地表に大変多い元素で

ある。しかし、ここが肝心なのだが、残念ながら 水素単体(H2)では

ほとんど存在せず、何らかの他の物質より抽出しなければならない。

現在、その物質は主として化石燃料である。天然ガス、石油燃料の

水蒸気改質がその典型となり、仮に 石油精製の余剰水素、製鉄の

副生水素の場合でも、化石燃料を使っている。炭素原子(C)を多く

含む石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を原料・エネルギー源と

する限り、水素生産に関わるどこかの過程で 二酸化炭素(CO2)も

否応なく発生してしまう。


 たとえ、よく いわれるような太陽光発電、風力発電などという再生

可能エネルギーの利用を考えても、なぜわざわざ、発電した電気を

水素に替える 必要があるのか 理解できない。また、水蒸気改質の

場合は二酸化炭素も多量に発生してしまい、決して「エコ」ではない。

燃料電池車が「究極のエコカー」とは、一体 誰がいい出した言葉か。

電気自動車(EV)が先に普及すると困る業界は、第1に ガソリンが

売れなくなる石油業界、第2に 電気自動車製造にI T企業やら家電

メーカーが参入してくる恐れのある 自動車業界自体である。だから、

それらの業界は、電気自動車より、燃料電池車のほうがまだマシと

考えているのであろう。特に石油業界では、余剰水素がビジネスに

つながれば、一石二鳥とでも企んでいるに違いない。


 これまでのところ、燃料電池車を 擁護しているのは、トヨタ関係者、

経済産業省、石油業界、ご用評論家の連中 だけの様子で、多少は

正常な学者、技術者、評論家たちは、燃料電池車に 懐疑的の様子

である。それにしても、電気自動車の日産リーフを なぜあの奇妙な

ボディ・デザインで発売してしまったのか、日産自動車、社長・CEO、

カルロス・ゴーン氏と専務執行役員・CCO、中村史郎氏の罪は深い。

私は日産リーフを見掛けるたび、カエルしか頭に思い浮かばないの

だが、皆様はどうであろうか。日産リーフが もっと電気自動車らしい

先進的デザインで 売れ行き好調であれば、トヨタもMIRAIの発売を

躊躇したと考えるのであるが‥‥。


 バッテリー容量増大により性能が向上し 航続距離が伸び、さらに

急速充電器の設置数が 増加すれば、燃料電池車は電気自動車の

「敵」ではないのである。燃料電池車=発電自動車と電気自動車=

充電自動車と、いずれがより自然で 理に適っているか、深く考える

までも ない。「水しか出さない」と「水さえ出さない」のいずれが上か、

皆様はお分かりであろう。勿論、電気自動車の場合、競合する国や

メーカーは 多くはなるが、日産リーフや三菱 i-MiEVに見るように、

日本の技術水準は高い。2017(平成29)年に発売されるであろう

次期日産リーフに期待する。


 燃料電池車MIRAIの価格は 約720万円である。ご親切な ことに

政府補助金を使えば、約520万円で買える というが、それにしても

高級車並みである。この約720万円という価格でも、トヨタ としては

赤字ではないだろうか。1997(平成9)年にトヨタが世界最初となる

ハイブリッド量産車・プリウスを 215万円で発売したとき、赤字では

ないか といわれていた。トヨタはその後ハイブリッド車を量産し続け、

いつの間にか日本は「ハイブリッド・ガラパゴス」国と 化してしまった。

世界中で、日本ほど ハイブリッド車が走り回っている国は 他にない

たとえ、低速・市街地走行が多い という日本でのクルマの使い方を

考慮しても、異常である。ハイブリッド車は 概ね10年、10万キロも

乗らないと 車両価格差を相殺できない といわれる。燃料電池車は

何年、何万キロ乗れば 元が取れるだろうか。ただし、ハイブリッド・

システムは 今や世界普遍的な技術であるから、この限り において

トヨタの先見性は認めることにしよう。


 強調するが、水素は 別に最近になって 発見された物質ではない。

昔から 存在する。水素がそれほどまで 生産に安価、輸送・貯蔵に

簡便な燃料ならば、技術革新の問題はあるにせよ燃料電池車など

もうとっくに 普及していても、おかしくはない。しかも、水素を燃料と

するには、安全な水素ステーションの増設といった厄介な大問題が

あり、燃料電池車の普及は ハイブリッド車のような訳には ゆくまい。

「水素社会」とか「水素都市」は、まだまだ虚妄、幻想の世界 であり、

あくまで現状では水素は、取り扱いが難しく かつ効率も悪い単なる

「エネルギー媒体」にすぎないのである。


 すでに諸外国においては、環境対応車とは認定できないといった

理由で、実質的にハイブリッド車を締め出す例も 出てきているから、

トヨタとしても 焦っているのであろう。トヨタはクラウン、カローラなど、

よくも また悪くも日本車のスタンダードを築き上げたメーカーである。

現在では、それがプリウス、アクアなど、ハイブリッド車に 替わって

いる。トヨタ燃料電池車MIRAIが 日本車のスタンダードになるのは、

果たして何年先のことだろうか。MIRAIは本当に「未来」だ というの

であれば、それは 詭弁でしかない。トヨタの 初代プリウス発売時の

キャッチ・コピー も、「21世紀に 間に合いました」であった。おそらく、

トヨタは想像以上に 急いでいる。だからこそ、トヨタは燃料電池車の

特許公開・無償提供に踏み切ったのである。


 1955(昭和30)年の 初代・RS型クラウン以来、積み重ねてきた

トヨタの努力を 私は高く評価する。それを承知の上、加えてトヨタの

ファンの大反論を覚悟の上であえていうと、トヨタと中国は似ている

ところがある。双方とも 覇権主義である。すでに トヨタは、ダイハツ、

スバルを傘下(領土)に 収めた。他自動車メーカー(他国)の後出し

ジャンケンやパクリを 平然と行い、マーケットを さらってしまう。また、

他メーカー(他国)に対し、ハイブリッド車、燃料電池車といった自社

(自国)のルールを強引に押し付けようとする。 もはや、トヨタという

メーカーは 三河の一介の田舎企業ではなく、国内的にも 国際的に

も 影響力の大きい、世界的 超大企業である。トヨタには、その点を

十分に自覚しつつ、今後とも 世界で活躍して頂きたい!


【注 記】


※一概に 「エコカー」といっても、そこには様々なクルマが あります。

高効率(高圧縮比) ガソリン車、直噴 ガソリン車、ダウンサイジング

直噴ターボ車、簡易(マイルド)ハイブリッド車、ハイブリッド車(HV)、

プラグインハイブリッド車(PHEV)、低圧縮比クリーンディーゼル車、

電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV) ‥‥。車格や価格に応じて、

これらを 使い分けるのが、現在の「エコカー」の基本思想です。この

中で、最もその普及が難しくて、発展途上国ではまず不可能なのが、

いうまでもなく燃料電池車です。それなのに、「究極のエコカー」とか

ミス・リーディングなフレーズを流し、数千億円の血税を使ったりして、

政官財癒着のまま、無理やり燃料電池車を普及させようというのは、

どこか狂っているし、絶対にあってはならないことです。安倍首相は、

将来の社会全体に関わるこの問題を、ご自身でよく考え、ご自身で

判断されるよう切に望みます!


※現在の原油安とガソリン安が、いつまで続くのか分かりませんが、

普通のガソリン車でさえ リッター当たり 40キロ近くも走るご時勢に、

構造が複雑で高価なハイブリッド車、また そのはるか上を行く燃料

電池車の必然性はどこにあるのか、十分考えたほうがよいでしょう。

上記の「エコカー」群の内、ハイブリッド車のせいで日本が出遅れて

しまったのは、現在ヨーロッパで主流となっているダウンサイジング

直噴ターボ車です。日本の自動車メーカーの中で、比較的 こうした

ダウンサイジングに熱心なのは日産ぐらいで、もっと増えてもよいと

思います。トヨタの陰謀とは 申しませんが、ハイブリッド車 ばかりが

走り回っている光景は、余りにも 異様です。マツダの常務執行役員、

人見光夫氏が、「うちは ダウンサイジングなど採らない」と大見得を

切ったそうですが、果たしてそれで済むのか疑問です。大排気量の

エンジンは「楽できる」から、むしろ燃費がよくなるという「屁理屈」は、

昔から 散々いわれてきたことです。


(8月8日付記)


※ヨーロッパのメーカー 勢が、プラグインハイブリッド車(PHEV)に

大きく舵を切ってきました。PHEVはハイブリッド車というよりも電気

自動車+補助エンジンという捉え方もできる、電気自動車の欠点を

補う考え方です。日本では、まだ三菱アウトランダーPHEV、トヨタ・

プリウスPHV(電気自動車(EV)が嫌いのトヨタは、PHEVと決して

呼びません)程度であり、ここでも出遅れています


※ホンダ・アコード・プラグインハイブリッドは見るも無残に売れずに、

生産終了しました。(2016年8月27日追記)


(12月7日付記)


※トヨタ燃料電池車MIRAIに水素ガスを充填するには、水素ガスを

700気圧!にまで圧縮しなければなりません。そのために、相当な

エネルギーを要します。また、700気圧の水素ガスは、非常に高温

になるので 急速冷却しなければなりません。これにも、再び相当な

エネルギーを要します。こうしたことだけでも、燃料電池車がいかに

非効率で「エコ」でないかがよく分かります。


※ガソリンスタンド(SS)を1ヶ所 建設するには、土地代を除いても

約1億円掛かるといわれますが、水素ステーションでは同じく1ヶ所

約5億円掛かるといわれます。これを 日本国中、何千、何万ヶ所も

建設しなければなりません。しかも、日本の国内だけでは それこそ

「ガラパゴス」となってしまい、アメリカ、ヨーロッパの先進国、ロシア、

中国、‥‥ の中進国、発展途上国にまで建設する必要があります。

そのようなことが、果たして可能でしょうか‥‥。


【参考データ】


日本全国ガソリンスタンド数‥‥約34,000ヶ所(2015年値)

日本全国充電スポット数 ‥‥‥約15,000基(同上)


※フランス・パリで開催されている、COP21(国連気候変動枠組み

条約・第21回締約国会議)で、安倍首相は相変わらず「水素、水素、

‥‥」と主張し 続けています。こうまでも、安倍政権が トヨタ自動車、

経済産業省を「肩入れ」するとなると、裏で「何か」が動いているとも

勘ぐらざるを得ません。


※これからの「エコカー」は、燃料電池車でなく電気自動車の時代!

間違いありません!!


(12月21日付記)


※東芝が、自立型水素エネルギー供給システム「H2One」 を 発売

しました。これは、太陽光発電、風力発電などのいわゆる再生可能

エネルギーを利用した、「燃料電池ユニット」です。どうやら、東芝は

経済産業省に抱き込まれた模様です。繰り返します。なぜわざわざ、

発電した電気を面倒な水素に替える必要があるのか。東芝は 現在

大変な状況です。その辺に、経産省が付け入ったのでしょうか‥‥。

私は「貧すれば鈍する」という格言を思い出します。